SPECIAL TALK SCRAP 加藤隆生×原作者松井優征 スペシャル対談

『週刊少年ジャンプ』の大人気漫画「暗殺教室」が、ついに完結。テレビアニメも好評で、映画も3月25日より公開。そんな、今勢いに乗る「暗殺教室」と、「リアル脱出ゲーム」がコラボレーションした「暗殺教室からの脱出2」が現在開催中だ。

あなた自身が3年E組の生徒となり、謎や暗号に挑戦する今回のゲーム。夢のようなこのコラボレーションは、どのようにして生まれたのだろう? そして、「暗殺教室からの脱出2」を楽しむポイントとは?
プライベートでも仲が良いという、「暗殺教室」の原作者で漫画家の松井優征と、リアル脱出ゲームの生みの親でSCRAP代表の加藤隆生。2人の対談の模様をお届けする。
松井優征(まつい・ゆうせい)
1979年埼玉県生まれ。漫画家。
2005年「週刊少年ジャンプ」にて『魔人探偵脳噛ネウロ』で連載デビュー。2012年より同誌で連載を開始した『暗殺教室』はTVアニメ化、実写映画化される大ヒットとなる。
加藤隆生(かとう・たかお)
1974年岐阜県生まれ、京都府育ち。
バンド「ロボピッチャー」のギターボーカル。2004年にフリーペーパー「SCRAP」創刊。誌面と連動したイベント企画のひとつとして開催した「リアル脱出ゲーム」が好評を博し拡大化する。マンションの1室から夜の遊園地、東京ドームなど、毎回空間と趣向を変えて展開される「リアル脱出ゲーム」は全世界で注目を集め、現在では200万人以上が熱狂する大人気イベントとなっている。
──漫画「暗殺教室」と、リアル脱出ゲーム。お互いの作品についてどう思いますか?

加藤 暗殺教室を初めて読んだとき、1話目で「風呂敷の広げ方を間違えたいい例だ、破綻するな」と思いました。暗殺を教える中学校? こんな漫画がね、続くはずないと、そう思っていたら、これが続いて、もちろんずっと面白くて。そして、15巻で衝撃を受けました。ああ、すべて計算されていたんだなと。上から目線だった3年前の自分をぶっ飛ばしたいですね。

松井 ははは(笑)。

加藤 17巻を発売日に買って、「めちゃめちゃ面白いな、暗殺教室」と思いながらお風呂で読んだんです。そしたら、漫画に挟まっていたチラシがハラリと落ちて。拾ったら、「暗殺教室からの脱出2」の告知で、風呂場で一人泣きそうになりました。こんなすごい作品とコラボできて、超ラッキーだなと。ありがたくて、誇らしいです。
松井 たくさん褒めていただきました(笑)。
僕が初めてリアル脱出ゲームに参加したのは、神宮球場です。圧倒されました。こんなにも上手くできたものを2000年代に入ってから生み出せるものなのかと。そして、ゲーム終了後に解説をする加藤さんの姿がカッコよくて、ヒーローに見えました。あと、それを前のめりになって聞くお客さんの姿。こんな世界を「今」作り出せる人がいることに驚き、いつか絶対にコラボレーションしたいと思いました。

──元々お互いの作品のファンだったお二人ですが、どのようにして今回のコラボレーションが生まれたのですか?
松井 初めてSCRAPさんと一緒にお仕事をしたのは、暗殺教室の単行本5~8巻に掲載した「パズルの時間」というコーナーです。最初の打ち合わせは新宿だったんですが、到着した時刻が一緒で、加藤さんと僕が同じエレベーターに乗り込んだんです。そういう偶然もあり、雰囲気的に「いける!」と感じました。その後も加藤さんとは飲みに行くようになり、「暗殺教室からの脱出(以下、暗殺1)」、「暗殺教室からの脱出2(以下、暗殺2)」へと繋がりました。

加藤 「パズルの時間」といえば、パズルを作っている時点では「このストーリーを漫画の中で描けるかはまだわからない」というお話でしたね。でも、提示した物語が18巻できれいに回収されているのを見て、本当に嬉しかったです。
松井 ストーリーに組み込みたいとずっと思っていたので、僕も描けてよかったです。
──松井さんは、暗殺1は見事に脱出成功されていましたが、暗殺2の結果はいかがでしたか?
松井 脱出失敗しました。でも、前回より今回の方が、少しは戦力になれたと思います。暗殺1の時は、チームメイトの活躍を見ているうちにゲームが終了していたので。
そして、暗殺2の会場で、暗殺教室を知らなかった人が脱出ゲームを通して暗殺教室を知っていく姿を目の当たりにしました。その瞬間、本当に「ああ、やってよかったな」と思ったんです。

加藤 「暗殺教室からの脱出」って、まずタイトルがいいですよね。こんなにもコラボ感が出てしっくりくる文字の並びは珍しいです。

──暗殺1は原作に無い新しいストーリーでしたが、暗殺2は漫画に沿った物語ですね。
加藤 暗殺1は、「暗殺教室からの脱出」というタイトルに捕らわれていた部分があります。暗殺する「教室」から脱出しなきゃいけない、と。でも、教室から脱出するストーリーは原作に無いので、新しく作りました。
そして、暗殺2は、「2」ってもう意味わかんないなと(笑)。そこで、自由に考えた結果、普久間殿上ホテルを会場に選びました。

松井 「暗殺2」は、ファンの方もかなり感情移入できる作品です。
それにしても、様々なエンターテイメントが掘り尽くされた中で、加藤さんは「リアル脱出ゲーム」という残っていた鉱脈をよくぞ発見したな、と。

加藤 ブームだと思っていたものが、うまく定着したと思います。作る人も遊んでくれる人も数が増えました。もしかしたら、カラオケが生まれてすぐの時は、「熱唱している変わった人たちだ」と思われていたかもしれません。でも、今はそれが普通です。リアル脱出ゲームもそんなふうに日常に溶け込めたらいいと思います。

松井 それこそ、カラオケに代わるツールになってほしいですね。飲み会の帰りに、「ちょっと脱出行くかー」って。

加藤 リアル脱出ゲームを思い付いた時のコンセプトは、「カラオケに代わる次の遊び」でした。でも、毎日いろいろな人が新曲を発表しているから、カラオケは存在できる。僕たちがあのペースで謎を作るのは無理です。どちらかというと、丁寧に一個ずつ作品を作っていく、そんな職人的なエンターテイメントになっていくのかもしれません。

松井 カラオケより、もう少し特別なエンターテイメントという気がしますね。

加藤 カラオケやボウリングは、仕組みを1つ作るとあとはお客さんが勝手にどんどん楽しんでくれて、そこでいろんなことが起こります。でも、僕らは「リアル脱出ゲーム」というフォーマットがあっても、その中の物語や謎を作り続けないといけない。

松井 あと、「暗殺2が大好きなので、20回参加しました」という人がいてほしいけれど、リピートもできない。

加藤 そうなんです。リアル脱出ゲームを生み出して3年目くらいの時に、「あれ、これ作り続けなきゃいけないんじゃない!?」って気付きました。ずっと頑張らないといけないと知って、随分としょんぼりした記憶があります(笑)。

──「暗殺教室からの脱出」と「暗殺教室からの脱出2」。人気漫画を2度にわたりリアル脱出ゲームにすることへの気負いはありましたか?
加藤 気負いよりも、「祭りに参加したい」という意識の方が強かったです。テレビアニメや映画の公開、そして漫画の完結というこのタイミングでイベントが打てるのは、とても光栄だと思いました。だから、前を通り過ぎていこうとする「暗殺教室」という面白いものを、反射的にパッと掴んだ感じです。

松井 いろいろな方に様々な方面からその「祭り」に参加していただきました。

加藤 暗殺1の時は、細かい設定もすべて松井さんに相談しに行きましたよね。

松井 僕が、何にでも首を突っ込みたがるので(笑)。
加藤 そしたら、提案したものを全部採用してもらえたんです。コラボとはいえ、作者の方から直接アイディアをいただけるって珍しいしありがたい。

松井 せっかくのコラボですから。あと、作者が案を出せば、暗殺教室が好きで脱出ゲームに参加した人も納得できるものが作れると思いました。

加藤 とはいえ、本業がありますからね。そして、完結に向けた大切な時期です。

松井 計画書があるので、この時期はネタで苦しむことはあまりないですよ(笑)。

──漫画「暗殺教室」の完結おめでとうございます。今後の松井さんのご予定は、お決まりですか?
松井 今までの経験で、焦ってもいいものは出ないと思っています。前の連載が終わった後、一年かけて次の連載のネタを作りましたが、その時のアイディアは掲載会議で落ちました。「1年じゃダメだ。3年くらい休まないと掲載会議で受かるようなものは出ないんだ」と、その時学びました。だから、今回は休めるだけ休んでみようかなと(笑)。

加藤 松井さんは、「連載が終わったらやることリスト」を大量に書いているんですよね。

松井 そうなんです。海外へも行きたいし、ユンボの免許とか取ってみたい(笑)。

加藤 僕もいくつかお供しようと思っています。全部は無理だけど。僕はまだ現役なんで(笑)。

松井 連載が始まったら、その連載には命をかけて責任を持つ。そこまでは自分のポリシーで決まっていますが、連載と連載の間は自由なので(笑)。

──「暗殺教室からの脱出2」に参加される方へのメッセージをお願いします。
松井 暗殺1よりも、さらにリアルに暗殺教室を体験できます。ホテル編は十数人で行動しますが、さながらその中の一員になった気分で冒険ができるんです。漫画の水中シーンを読む時に、思わず息を止めてしまうような、そんな「焦り」の概念をもう一度漫画に再輸入できます。暗殺教室のファンの方にこそ、ぜひ参加していただきたいです。

加藤 僕は元々、「この登場人物は今どんな気持ちなんだろう」と思いながら漫画や本を読むのが好きです。暗殺2では状況をリアルに想像することができます。「思っていたよりも追い込まれている」とか、「想像していたよりファイティングスピリッツが湧く」など、そういう気持ち体験して、そこからもう一度漫画に戻ってみてください。読み方がきっと変わってくるので、エンターテイメントの新しいメディアミックスが体験ができると思います。
暗殺教室からの脱出2」は、まだ各地で参加することができる。原作者の松井さんをも唸らせた謎の数々の体験は、ぜひ会場で。

→ チケット購入可能な会場一覧

(text:たけべともこ/photo:関口史彦)

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