加藤隆生

1974年岐阜県生まれ、京都府育ち。同志社大学心理学部卒。バンド「ロボピッチャー」のギターボーカル。2004年にフリーペーパー「SCRAP」創刊。08年、株式会社SCRAP設立。誌面と連動したイベント企画のひとつとして開催したリアル脱出ゲームが好評を博し拡大化する。教室やマンションの1室から夜の遊園地、東京ドームなど幅広い場所に謎を仕込む。2012年には世界中で20万人を動員した。

倉田光吾郎

現代美術家。1973年 東京都生まれ。幼少の頃からプラモデル製作に熱中し、作ることの喜びを知る。1991年、『FROM-A-THE-ART』で佳作を受賞。その後、調香師である島崎直樹の『香り展』のオブジェを製作し、作家として活動を開始。1999年、新国立劇場での『フィガロの結婚』で舞台装置制作を担当。 ベルリンで1年間の休養を経て、2005年「1/1スコープドック」を制作。2007年に中目黒「聖林館」、2010年「カストロール1号」など分野にとらわれない活動を続け、2010年の途中からKURATASの制作を開始、2012年のお披露目以降国内外から大きな脚光を浴び続けている。

同世代クリエイターサイコ野郎対談!

加藤:僕ら、ほぼ同い年みたいですね。僕、1974年なんですよ。
倉田:僕、1973年ですね。ひとつ違いですね。
加藤:なんか嬉しいなあ。そもそもどうしてクラタスを作ろうと思われたんですか? あんな売れなそうなものを!
倉田:(笑) 前身となるプロジェクトに、1/1ボトムズ(注1)というのがあったんですよ。アニメの『装甲騎兵ボトムズ』(注2)に出てくる、スコープドッグというロボットを作ったんですね。それで「油圧」という、機械特有の仕組みなんかを覚えた結果、「人が操縦できるロボットも作れそうだな……」と思って。作れるってわかったら、作りたくなるじゃないですか。
加藤:わかりますわかります。元々、アニメがお好きなんですか?
倉田:いや、実はそんな好きじゃないんですよ。今もアニメ全然見ないし。ただ、僕らの世代ってテレビ点けたらロボットアニメやってたじゃないですか? その刷り込みはありますよね。ロボットは、大人になったらあるもんだと思ってましたし。意外と誰も作らないから、「え? じゃあ、俺?」って。
加藤:わはははは(笑) じゃあ別にガンダムやマジンガーZに憧れてってことじゃ全然ないんですね。
倉田:ないですね。ロボットよりも、乗り物が好きなんですよ。クラタスについても、乗り物って意識が強くて。ボトムズを作ってコックピットに座った時に、すごい恐怖感があったんですよ。4メートルなんてたいしたことないって思われると思うんですけど、間近で見るとけっこう迫力ありますし、乗るともっと怖い。じゃあ実際に、操縦した時どんなふうに感じるんだろうっていうのが、作りたくなった一番の理由ですね。そこが知りたくて。
加藤:技術が先にあったんですか? 「作れるな」っていう技術が手元にあったから、やろうと思ったんですか?
倉田:いや、そこは加藤さんと同じで、ノウハウは何もなかったですね。やりたいことが先にあって、まずはやってみる。やりたいことがあっての勉強が、一番身につくんですよね。自分のできることだけでモノ作っちゃうとするとおもしろいもの出来ませんから。むしろ、できないからこそやりたいと思いました。あとまあ、基本一人で作るのがスタイルなんですけど、結局おもしろいことやってると人って付いてきてくれたりするじゃないですか? ネットの力もすごく大きくて、「電気わかんないよ」って書いたら、電気にむちゃくちゃ詳しいやつが来てくれたりするんですよ。ノウハウがなくても、なんか楽しんでると、人が集まってきてくれるんですよね。むしろ、このやり方だったからできたんじゃないかとも思います。
加藤:「ロボット」っていうのも大きかったのかもしれませんね。「人が乗れるロボットつくる!」って、“おもしろそう感”すごいじゃないですか。
倉田:それはあると思います。加藤さんは、どういう風に仲間を集められたんですか?あと、技術的な問題ってどう解決されました?
加藤:僕は、元々フリーペーパーを作ってたんで、仲間がすでにいたんですよ。その仲間の力を使って、今この瞬間、一番おもしろいもの作れるとしたらなんだろうって考えて出来たのが、リアル脱出ゲームなんです。だから、道具やギミックは二番目でいい。技術的な問題も特になくて、今でもアナログなことばっかりやっています。以前、『幽霊船からの脱出』という、幽霊船から脱出するという仕立てのリアル脱出ゲームを作ったことがあります。当たり前なんですが、幽霊船を作るお金はないわけなんで、会場はただのライブハウス。でも司会が、「みなさん、ここはおそろしい幽霊船です!」って言えばもう幽霊船なんですよ! 少なくとも、ゲームの間の60分間は。
倉田:なるほど(笑)
加藤:まあ、それだとあんまりだから、波の音を流そうかとか、コスチュームを替えてみようかとか、そういう工夫はありますけどね。


注1:実物と全く同じサイズでアニメのロボットを作るという狂った挑戦。倉田さん曰く“根性試し”。詳しくはご本人のサイトで。
注2:ガンダムやマジンガーZとは違って、主人公のロボットが全然強くない(むしろ弱い)という設定の変わったロボットアニメ。ボトムズを選ぶ倉田さんは相当渋い。

「どこ行ってもだめで……」という仕事は燃える

加藤:こういう仕事は燃えるっていうのはありますか?
倉田:「誰に頼んでもダメで……」っていうのは、燃えますね。
加藤:わかりすぎる。 「俺しか出来ないってことですか!?」ってなりますよね。
倉田:そうそう。完成が見えてなくても引き受けちゃいますよね。なんか、土壇場になったら思いつくだろって自信もなんとなくあったりして。以前、「サッカーボールを時速300kmで蹴るマシンをつくる」っていう仕事があったんですよ。ぱっと聴いて、出来る気がしなかったんですけど、まあなんとかなるかなって。実際、出来ましたし。
加藤:うん。僕の場合、「誰もできなかった」って言われると、「あ、じゃあ失敗してもいいんだ」って思うんですよ。
倉田:ずるいなそれ(笑)
加藤:10人がプロジェクトに加わってたら、10人均等に責任があると思うタイプなんですよ。表向きは僕が責任者だし代表なので、「大丈夫! 何かあったら、俺が責任とるから!」って言うんだけど、心の中では「言っても10等分だけどね」って思ってる(笑)
倉田:いいなーそういうの。僕は一人でやってるんで、「最悪俺が死ぬだけだし」って思ってますね。
加藤:それはそれで強いなー。まあ、技術屋さんならではの「動かなかったらどうしよう」みたいなプレッシャーってありますもんね。僕らはそれ、力技で解決できちゃうところがあって……。リアル脱出ゲームを作るとき、謎を解いた人が、答え合わせをしにいくチェックポイントをいくつか作るんですよ。例えばそのチェックポイントを、ある装置を使って作ったとしますよね、数字のボタンがいくつかあって、特定の順番で押すと通れるみたいな。
倉田:はいはい。
加藤:その装置が、当日故障したとしましょう! 技術屋さん的には大ピンチですよね?
倉田:考えたくないですね。
加藤:でも僕らは、大丈夫なんです。お腹にボタンの絵を書いたスタッフを一人立たせて、「正解だったら“ニンショウシマシタ”違う順番で押されたら“ニンショウデキマセン”って言ってね」って仕込めば済んじゃいますからね。
倉田:そっかー。確かにそれでも問題ないですね。今、『巨大神殿からの脱出』当日、クラタスが動かなくても大丈夫なんだって、ホッとしました。
加藤:いや、それは困りますよ! だめ! まあでも、ほんとに動かなかったら、「クラタスが動かないっていう状況で、一番おもしろいことしよう」って言うとは思います。
倉田:めっちゃポジティブですね! それって、昔からそうですか?
加藤:いや、20代のときはないものねだりでしたね。ミュージシャンやってたんですけど、「もっといいプロデューサーが付いたら売れるんじゃないか」とかいつも思ってましたし。でも、30歳の時にちょっとした事件が起こったんですよ。ボロフェスタ(注3)っていう音楽イベントの代表をやってたんです。フジロックやサマソニよりずっと小規模で著しくカオスなロックフェスです。3つのステージに50組ぐらいのミュージシャンが出る予定で進めてたんですけど、本番前日になっていろいろあって、ステージの数がひとつ減っちゃったんですよ。出るミュージシャンの数は変わらないのに。
倉田:大ピンチですね。
加藤:そうなんですよ。ミュージシャンたちはもう、全国から京都に向かってるしね。前日だから。普通のスタッフだけじゃなくて、いつもキリッとした顔で仕切ってくれてるリーダー格のスタッフまでみんながもう、この世の終わりみたいな顔してて、全く使い物にならなくて(笑) 「やばい! 俺がギブアップしたらこのイベントもう終わりや」ってすごく強く思ったんですよ。その結果「今あるもので最高のイベントを作ろう。ステージが全部あった時よりいいものにすればいいだけの話だから」っていう言葉が自然に出た。そこからですね、そういう風に、現状での最適解を探すようになったのは。
倉田:はー。事件が人を作るもんなんですね。


注3:SCRAPの起源となっていると言っていい、京都を代表するDIY音楽イベント。SCRAPの社員・スタッフは「その日ボロフェスタで……」というと大体のことは免除される。つい先日開催された本祭の様子はこちら

文化祭で頑張っている女子の悪口を言うのが
仕事だった

倉田:こどものころは、どんな子だったんですか?
加藤:典型的な“わがままな長男”です。
倉田:やっぱり目立ちたがりや?
加藤:調子にのるタイプではあったのだけど、けっこう失敗するというか、“スベる(注4)”タイプでしたね。思春期になると前に出ることもなんかださいと思うようになって、文化祭とかでは、頑張っている女子の悪口を言うのが仕事でした。「全然やる気せえへんわー」、「こんなこと頑張ってなんか意味ある?」っていう活動をですね……。
倉田:相当斜に構えていますねー。そんな人が今、“毎日が文化祭だ!(注5)”とか言っているのがおもしろい。
加藤:そうなんですよ。今は、失われた文化祭を取り戻す旅の途中なんです。僕はそこに、満たされてない穴が空いているんですよ。でっかい仕事をやりきった夜なんかに「これで埋まったかな」と思うのだけど、2、3日経つと、もう忘れちゃうんです。満たされてないから作り続けられるのだとも思うけど。
倉田:それはすごいわかります。慣れちゃいますよね。クスリみたいなもんで。クスリやったことないですけど。
加藤:ほんとそう。麻薬ですよね。僕もクスリやったことないですけど。複数の仕事を同時に回していること自体が快楽になってきたりもしますしね。「新しいドラッグだぜ!」みたいな感じで。なんか、話が危ない方向に進んでいますね。まあいいか。
倉田:売れなくなった芸能人がクスリとかに落ちていく感じとか、ちょっとわかりますよね。人生が止まってしまうとほんとにやばい。
加藤:わかる! 8月にちょっと仕事をセーブして、会社には行くんだけど普段の半分ぐらいの時間しかいないし働かないっていう時間を作ったんですよ。1ヶ月間。普段うちのスタッフって僕をつかまえるのに躍起なんですよ。打ち合わせで会社にいないことも多いし、僕が確認しないと進まないものも多いから。でもその時は、ずっと会社にいたんですよね。「加藤が会社にいること」の価値が暴落して……。みんなに「帰ってもいい?」って聴いて、「いつでもどうぞー」っと言われたとき、死にたくなりましたもん。
倉田:「この1週間あったら人生前に進められたのに!」って思いますよね。僕なんか怖いですよ。ある日事故にあって、腕なくなっちゃったらもう終わりですからね。なにも作れなくなる。
加藤:倉田さんなら、すごい義手作って仕事できるようにしそうですけどね。
倉田:ははは(笑)


注4:関西では、スベるやつはモテない。
注5:SCRAPの合言葉。加藤は、「失われた文化祭からの脱出」をずっとプレイしているようなものである。切ない。

サイコ加藤&サイコ倉田

加藤:倉田さんは、どんなこどもだったんですか?
倉田:内気でしたね。やりたいことあるんだけど恥ずかしくてできなくて、たまにやると、加減がわからなくて怪我とかさせちゃったり。サイコ野郎(注6)ですね。
加藤:サイコ野郎って(笑)
倉田:いや、人に言われたこともあるんですよ。「このサイコ野郎!」って。本気で。昔の彼女に言われたんですよ。「とんだサイコ野郎だな」って。
加藤:どんなことしてしまうんですか? 言える範囲でいいので……。
倉田:なんでしょうね……。川の前に人が立ってると押してしまうタイプなんですよね。
加藤:あーだめですね。僕はそんなことないですけどね。常識人ですから。
同席したSCRAPスタッフ:いや、加藤さんもサイコ野郎じゃないですか。まさかのサイコ野郎対談ですよこれ。
加藤:なーんやねん! 俺なんもせえへんやんけ!
同席したSCRAPスタッフ:急にオフィスで働いている女性スタッフの椅子つかんで走り回ったり、脈絡なく激怒して叫んだりするじゃないですか。
加藤:するな。脱いだ洗濯物を床に叩きつけたり……。自分で、「なんやいまの!?」って思うときある。あれやばいの?
倉田:自分でわかってないのって一番やばいパターンですよね。
加藤:ちょっと汗かいてきた。
倉田:でも、そういうの、若い内やっとくといいですよね。これ以上はだめなんだってラインがわかるので。
加藤:ラインを超えて失敗したことがあるから、ぎりぎりのところを狙っていけるのかもしれませんね。「向こう側を知っている」というか。なんかかっこいい。かっこいいですね、俺たち。


注6:洋画の「You are crazy!」の日本語訳としてよく使われる言葉。人と違うことをやるのが価値となるクリエイターたちにとっては、時にホメ言葉である。上記、加藤と倉田の場合は、特に褒められてはいない。

金儲けはめんどくさい

加藤:自分が作ったものを人に評価されたいっていう欲求ってあります?
倉田:あると言えばありますけど、一番は、「どこにもないからそれ欲しい!」というところですね。
加藤:なるほど。僕はやっぱり評価されたいんですよ。まあ、チケットビジネスだから当たり前なんですけど。みんなの評価=チケットの売れた枚数であり、売上なんです。売上を見て、評価されたかどうかを判断するし、それが一番のモチベーションだったりするんですね。かつては、こう、自分がどれだけ納得できる作品が作れたかとか、案件自体のおもしろさとかに重点を置いてたりもしたんですけど、あるときから、お金のことを評価だって素直に思えるようになって……。それで、アーティストぶるのをやめられたというか、ビジネスとしてリアル脱出ゲームをやれるようになりました。失礼な態度とか取られても、怒るのをやめて。いや、今でもけっこう怒ってるなおれ。
倉田:例えばもしクラタスが10機売れたら、次は100機売ろうとするだろうし、いずれは量産型クラタスみたいなの作って1000機売ろうとするとは思います。でも、今はそのためにはやってないですね。お金儲かるのって、けっこうめんどくさい部分もあるじゃないですか?
加藤:めっちゃあります。悩みが増えますよね。20代のプラプラした暮らしに比べたら使えるお金はすごく増えたし、これで楽になるのかなと思ったら全然そんなことなかった。じゃあ倉田さんは、自分が欲しいと思ったものでまだ世にないものを、自分の手で作りたいっていうそのモチベーションだけでやれてると。少なくとも今はそうってことですよね?
倉田:そうですね。あと、お金を産むものっていうのは、人の欲しがるものじゃないですか? その時点で人が評価できるもの。でも、僕が作りたいものって、まだ誰も見たことがなくて、価値を測ることができないものだったりするんですよね。それをビジネスベースでやっちゃうと、価値が出るように出るようにしか作れないと思うんですよ。その縛りが怖い。ひとりでやっているのは、そうしたくないからというのもあります。誰かと一緒にやって、「これ、いくらで売れるんですか?」って言われたら、もう終わっちゃうんで。
加藤:なるほどー。とはいえクラタスは、商品としての魅力がありすぎますよね。4メートルの乗れるロボットって、僕らがこどものころ見てた“未来”にはとっくにあったはずのもので、「ありそうでなかったもの」っていう、もっとも商品価値のあるプロダクトそのものじゃないですか。
倉田:ありがとうございます。でも売るって大変ですよね。
特に日本だと、ロボットに対する思いが特殊というか、凄く期待値が高い気がします。色々面倒っぽいから、石油王だけをお客にすればいいんじゃないかと思いつつ。
加藤:売る気あります?(笑)
倉田:自分は売るよりも作る方が好きなので、あんまり無いかも。
あと、海外からの購入希望のメールとか見ていると、やはり色々な所で日本の感覚とは違うな、と。文化のバックグラウンドが違うから、自分が思った通りに楽しんでもらえないんじゃないかっていう懸念もあります。最初にも言ったように、僕らには“ロボット”というものに対しての刷り込み・共通認識があるんですけど、海外の方にはそれがないじゃないですか。リアル脱出ゲームはそういうのないですか?

独自の進化を遂げる海外のリアル脱出ゲーム

加藤:ありますあります。中国のとかすごいです。最初に上海で僕らがやった後にパクられまくって、あちこちにリアル脱出ゲームの施設ができたんですよ。最初はいい気しなかったんですけど、文句言ってるだけってのも嫌なだなと思って、一回行ってみたんですね。そしたもう、それがおもしろくておもしろくて。僕らは、何もないところに物語を持ち込んで、ほんのちょっとギミックで空間をねじ曲げちゃうんです。東京ドームクラスの公演の仕込みですら、1時間かからなかったりするんですよね。僕らの最大の強みのひとつです。
倉田:投資が要らないってのは、ビジネスとしてすごく優れてますよね。
加藤:でも中国の人たちはそれをよしとしなかった。ギミックへの金のかけ方が半端ないんですよ。入るといきなり大きな沼があって、沼の向こうにトビラがあるんですねで、押し方のわからないボタン。謎を解くとボタンが押せるようになるんですけど、押すと、沼から橋が浮かんできたりするんですよ。別の部屋では、ハンドル回すと本棚がずれて隠し階段が出てきたりとか。むちゃくちゃおもしろくないですか? リアル脱出ゲームよりあっちの方がおもしろいですよ! 倉田さん、僕とそういうの作りませんか?
倉田:おもしろいですね(笑) 作るのもおもしろそうですけど、加藤さんのものづくりの特徴である「モノを作らないでお客さんに想像させる」っていうのが、なくなってしまいそうで、そこはなんだか複雑です。『巨大神殿からの脱出』も、そこをすごい楽しみにしてるんですよ。
加藤:日本人の想像力って異常ですよね。庭の石の並びを見て「これは川だ」って言ったり、五・七・五で季節を感じたり……。中国で『幽霊船からの脱出』をやったときアンケートに、「何が幽霊船だ! ここはライブハウスじゃないか!」って書かれまくったんですよ。
倉田:それ、おもしろい話ですね。
加藤:求められているものが全然違うんです。日本のゲームがなんとなく子供っぽいものに思われているのって、そういった文化の違いがよくない方に出ちゃってるんだと思います。すごくリアルに、生きている人そのままの表現でゲームを作る技術があるのに、「いや、デフォルメした方がいいんだ。これがゲームとしておもしろいんだ」ってやりすぎちゃったのかなと。海外で公演をやるなかで、それを体感した気がします。リアル脱出ゲームを僕が思いついた瞬間から今まで、世界一このゲームを作るのが上手なのは僕だと思うんですけど、こと“より現実世界に近いものを作る”っていうことにおいては、世界のどこかに、僕より上手な人間がいるかもしれません。そう思うと、虫酸が走ります。
倉田:それもすごくわかる(笑)
加藤:さっき売上が全てだって言いましたけど、お金のためのものづくりを3回やると、ガンガンガンガン!!って、警鐘がなるんですよ、頭の中で。
倉田:サイコ加藤が金を鳴らすんですね(笑)
加藤:そう! やつが現れるんですよ。「お前やばいぞ!」って。そういう時に洗濯物を叩きつけてるのかもなあ。

クラタス meets ライブ感の化身

倉田:20代の時の加藤さんが今の加藤さんのこと見たら、どう思いますかね?
加藤:ぱっと見は嫌いなんじゃないですかね。キツイ悪口も言われると思います。当時の僕の主な活動は、成功してる感じの人間の悪口を言うことだったので。まあでも、好きになってくれるとは思います。昔からなんとなく「満員電車の中くたびれた顔をして、夕刊紙を読みながら老いぼれてくのはゴメンだ」と思っていたし、「物語の主人公になりたい!」とは思っていました。当時はギターを持ってミュージシャンになることでそれを成そうとしましたけど、手段が変わっただけで、やってることは同じですから。話せば、わかってくれるかなと(笑) 倉田さんはどうですか?当時の倉田さんが、今の倉田さんを見たら。
倉田:大好きだと思いますよ。でも同時に、「成長してねえな」とも思うと思います。主に金銭面で(笑)
加藤:大好きっていいですねえ。
倉田:やってることほんと変わってないですしね。僕のやってることって、時間が止まったような作業なんですよ。ほんとに同じことの繰り返しですから。ライブ感全然ない。今回は、そうして作ったクラタスに、ライブ感の化身みたいな加藤さんの手が加わることでどんなものが出来るのか、本当に楽しみです。
加藤:僕も楽しみです。

Fin


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