スペシャル対談

左から、『ファイナルファンタジーXIV』プロデューサー兼ディレクター・吉田直樹、SCRAP代表・加藤隆生

2017年2月10日より、東京Zepp DiverCityを皮切りにリアル脱出ゲームZEPP TOUR 第5弾として、『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』が開催される。12月初頭に行われたデバッグ公演には、リアル脱出ゲームを運営するSCRAP代表・加藤隆生氏と『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクター・吉田直樹氏が参加。デバッグ公演終了後には、両者の対談が行われることとなった。今回はその様子をご紹介しよう。

インタビュー・テキスト:須賀原みち
撮影:山川哲矢

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SCRAP代表・加藤隆生氏(以下、加藤) : 『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』は、どうでしたか?

『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクター・吉田直樹氏(以下、吉田) : 楽しかったです。(脱出成功まで)あと一歩ってところでタイムアップだったんですよね。いやぁ、もう悔しい。『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』は、「FINALFANTASY」(以下、FF)シリーズがわからなくても謎を解けるし、FFシリーズ好きの方はニヤッとできて、さらに『FFXIV』プレイヤーだとよりニヤッとなる。SCRAPにFFシリーズ好きの方がいらっしゃるんだろうなっていうのが感じられました。

加藤 : 僕らが作りながら意識していたのは、『FFXIV』に限らず、この30年間で一度でもFFシリーズを愛したすべての人たちが遊べるようなものであればいい、ということ。ひょっとしたら、ここ数年FFシリーズをやっていない往年のFFファンが、今回をきっかけにリアルタイムで進化しているFFシリーズをまた遊んでもらえるようになったら最高だな、と。

吉田 : FFシリーズのコンセプトの一つは「毎作チャレンジする」なので、出て来るキャラクターや世界観までも違う。だから、共通のキーワードっていうのはすごく難しいんですよ。だけど、今回の『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』をやってもらうと、「俺たち、FF好きだったよね」ってことを認識できる。終わった後に「どのFF作品が好き?」という話もできますね。

加藤 : 僕の中で、FFシリーズは重厚な映像や荘厳な音楽というイメージ。実は、僕らSCRAPは先に2017年2月以降のZEPPの会場を押さえていたんです。リアル脱出ゲームのZEPP TOURは今回で5回目で、5年前の第一回はSCRAPとしてホール型の会場でやるのが初めてだったので、ものすごく思い入れのある会場でもある。それで「何をテーマにしようか?」と考えていた時に、ちょうど「FFシリーズとコラボ出来るかも」ってなった。ZEPPなら、映像をデカイ画面で見れて、バーンと音を聞きながら動き回って冒険が出来るから、FFコラボにピッタリだと思って、スクウェア・エニックスさんに企画書を持っていきました。

吉田 : 今回、コラボのお返事が信じられないくらい早かったと思います。というのも、『FFXIV』の開発・運営チームにはリアル脱出ゲーム好きが結構いるんですよね、中には、毎年ZEPP TOURに参加して脱出成功率の高いメンバーが、SCRAPの方に顔を覚えてもらってたりして(笑)。だから、偶然ですけど運命的なタイミングだったのかな、と。

加藤 : 一番最初に居酒屋みたいなところで『FFXIV』チームとSCRAPチームがお会いした時は、それぞれお互いの作品を好きだという気持ちをぶつけ合って、満足して終わる妙な場だった(笑)。でも、あの時にもう「上手くいくな」って思いましたね。

あと、僕は一度、ラスベガスでの『FFXIV』ファンフェスティバルを見に行ったんです。吉田さんが登壇すると、5000人くらいのアメリカ人が「YOSHI! YOSHI!」って熱狂する。それを見た時に、「これは本当に良いモノを作らないとヤバイぞ」と思ったし、俺たちも『FFXIV』をアナログに落とし込んだこのリアル脱出ゲームをアメリカに持っていきたいと、すごく熱くなりました。

吉田 : FFシリーズには、下手をすると我々以上に作品の世界観やストーリーを深読みするコアなファンが世界中にいます。だから、『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』も英語版が出来れば、彼らも大熱狂するはずなので、(今回のコラボは)今後も大きく広がりそうなお話だと思いましたね。

――『FFXIV』とリアル脱出ゲーム、お互いが考える作品の魅力や両者の共通点はありますか?

加藤 : 『FFXIV』はSCRAPのメンバーとダンジョンに潜って、「後ろ!後ろ!死ぬ〜!!」とか、ワーワー言いながら冒険したんですよ。僕ら、最初は「天然要害 サスタシャ侵食洞」で10回くらいゲームオーバーしてる(笑)。僕らの作るリアル脱出ゲームでは、「一時間で脱出する」という共通の目的に向かって、仲間と膝を突き合わせながら会話をしながら同じ空気感や感情を共有するというのを一番大切にしています、それはリアル脱出ゲームと『FFXIV』の共通点だな、とすごく感じました。

吉田 : ゲームは、ディレクターやゲームデザイナーによって考え方や作り方がさまざまな作家性のあるエンターテインメントです。その中でも、『FFXIV』はわりと論理的に作られているところが多いんです。例えば、最大効率でクリアすることもあれば、フリーカンパニー【注:プレイヤーたちが独自に作成・所属するグループ】の仲間と「今日はこのジョブ練習したいから、付き合って」みたいに、早くクリアすることが目的じゃなかったりする。ある局面ではこうやって遊んでもらう、といった設計はかなりロジカルに作っています。

リアル脱出ゲームも、一本の筋道を通すという論理性があった上で、謎を作っている。実は(作品の)頭と後ろを作るのって簡単なんですよね。ワクワクする素晴らしいストーリーの書き出しと、大団円を迎えるラストは書けるけど、中間を作るのがすごく大変。今回一緒にお仕事をさせていただいて、リアル脱出ゲームは『FFXIV』と作り方が似てるんだと感じました。

加藤 : 僕らはまず物語と構造を作って、それを一回通してみて面白く成立すると思ったら、それから謎を作ります。謎っていうのは、ある意味、物語を進めるための装置。同時に「この謎は5分で解いてもらおう」とか、(謎を使って)時間の間隔を配置していくイメージ。『FFXIV』のダンジョンにいるモンスターも、時間配分を考えて配置されているように感じました。

作り手側だけじゃなく、お客さんの感じている『FFXIV』とリアル脱出ゲームの共通点もたくさんあると思います。だから、リアル脱出ゲームを好きな人は、オンラインRPGにもすごく向いてるんじゃないかな。

吉田 : もちろんリアル脱出ゲームの存在は知っていたんですが、今回のコラボのお話があって、初めてリアル脱出ゲームを体験させていただきました。パーティの中で「あなたはこの問題だけ考えて」と役割を割り振ったり、パーティみんなが集まって同じことをやる瞬間もある。そういった計算された盛り上がりどころがあって、謎がその盛り上がりのためのアイテムというのは、『FFXIV』とも似ているし、本当にオンラインRPGっぽいと思いました。あと、クリア目前で脱出できなくて悔しい!っていう感情も、また次も遊びたくなる動機なのかな。

加藤 : リアル脱出ゲームだと、RPGにおける戦闘が謎で、HPが時間なんですよね。段々とHPが削られていく戦闘をしながら物語を体験させるという意味で、『FFXIV』とリアル脱出ゲームは本当に似てると思うな。

吉田 : 『FFXIV』でも、ボスのHPが残り1%で全滅って本当にあり得るんですよ! 残り1%のHPとか、リアル脱出ゲームの「あと3分あれば…」みたいな、次こそは行けるんじゃないかっていう、あの感じ。だけど、リアル脱出ゲームはリトライできないから、次のリアル脱出ゲームでリベンジするしかない。その中毒性はすごく感じましたね。

――ネットとリアルという違いはありつつも、両方とも多くの人が集まるゲームですよね。みんなが集まるゲームを作る上で、苦労する点や気にしているポイントはありますか?

吉田 : 苦労という意味だと難しいですけど…。僕ら開発者が想像だにしなかった行動をお客様が取る、というのは、作っていて面白いところでもありますね。

加藤 : ちょっと意外なことをされた時は、逆に「じゃあ、それをゲームに生かしちゃおう」って思います。リアル脱出ゲームは基本的に何をしてもいいゲームなので、初期の頃は正式なルールがあまりなかったんです。昔、会場を探索していたチームが、会場の奥から僕らの知らない鉄板を引っ張り出してきて、「これはきっと謎に使うものだ!」って言ってたこともあります。会場の支配人に聞いても、「あんな鉄板を置いた記憶がない」って(笑)。

吉田 : ハハハ(笑)。

加藤 : でも、そういうことも起こるところがリアルだし、だから面白いっていう気持ちもあるんですよね。とはいえ、そこまでコントロールが出来ないのも困るので、会場の中のものは一切触らなくても謎が解けるように、段々とルールが変わっていきましたね。そうすると今度は「もっと色々なものに触ったりしたい」という要望が出てきたので、家具をひっくり返すゲームを作ったり…。リアル脱出ゲームは、そうやって発展してきました。

吉田 : この間挑戦した『FFXIV』のレイドダンジョン「大迷宮バハムート:邂逅編」【注:吉田氏と加藤氏が、ニコニコ生放送で高難易度ダンジョンに挑むという企画を実施(youtu.be/B_eHq0BuC1k)】にある安全地帯って、僕ら開発者はまったくの想定外だったんです。プレイヤーのみなさんは「この攻略法は正攻法なんですか? 使ってもいいんですか?」って言うんですけど、僕らは「どうぞ使ってください。それこそが光の戦士たちの力ですよ」って思っていて。ガチガチにルールを決めて、「これ以外の解法をしたら絶対に死んでしまう」というコンテンツを作るのは簡単なんですけど、窮屈で面白くないんですよね。そのあたりは、プレイヤーと毎回キャッチボールしながら作っている感じがあります。

加藤 : オフィシャルな解き方を超える解法をプレイヤーが編み出したってことですもんね。それはすごい化学変化。

吉田 : 発想力って天井知らずなんだな、って思うことがありますね。

――反対に、『FFXIV』とリアル脱出ゲームの相違点はありますか?

吉田 : 僕はもともと若い頃から超オンラインゲーマーだったので、顔や本名、年齢や性別もわからない人とゲーム内のキャラクターとして出会ってました。そこでは逆に、その人のニュートラルな価値観が出やすいんです。リアルの世界だと、顔や性別、年齢である程度決めてかかってしまうところがあるけれど、オンラインゲームにはむき出しの人間ドラマがあって、関係が構築されていく。だから、そこで人生の唯一無二の親友やパートナーを見つけたという人もたくさんいます。それはオンラインゲームにしかない魅力だし、価値でもあります。

加藤 : RPGで役割を演じているほうが、リアルだと出てこない感情や人間性が出て来るというのは、面白いですね。なにかひとつ、仮面があったほうが正直になれるってことなんですかね。

吉田 : 一方で、リアル脱出ゲームはリアルで出会うけど、一つの謎を解くための協力が始まると、それこそ性別も関係なくなるし、年配の人の知識を尊敬する瞬間があったり若い人の突飛さや行動力にビックリしたりと、60分間でそれまで持っていたお互いの価値観がどんどん変わっていく。ひとつの目的に向かって一緒に遊んでいく中で、同じ価値観の人と出会ったり、お互いの価値観を尊重し合えるようになる。リアルとオンラインでは、その価値観の積み上がり方や関係性の作られ方がまったく真逆なことに感激しました。

――それでは、参加者の方には『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』をどのように楽しんでもらいたいですか?

加藤 : 僕の理想としては、ゲームのキャラクターに自分の体験を投影して遊んでもらえるといいな、と思っています。「実際に歩いて冒険してみると大変で、FFの世界にいるキャラクターって、こんな気持ちだったのかな?」みたいに。なので、FFの世界に生身で入るような体験をしてもらいたいです。

吉田 : 一つだけプレイする方に言いたいんですが…謎を解く前に「FFに出てくるこの敵は、ゲームでもこんな感じだった!!」みたいな話で盛り上がっちゃうんですよ(笑)。そういった話はリアル脱出ゲームが終わった後にもできるので、時間のバランスを考えながら謎を追っていってもらえるといいですね。

加藤 : いろんなところに小ネタが隠されているので、それを探しすぎると謎が解けない(笑)。

吉田 : そして、僕が脱出できなかったリベンジは、ぜひ全国の光の戦士のみなさんにしていただきたいです!

――最後に、お二人から読者へのメッセージをお願いします。

加藤 : 『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』は、めちゃくちゃ楽しませるので、まずはぜひ気楽に遊びに来てください! そして、『FFXIV』をプレイしてなくてももちろん楽しいけれど、『FFXIV』を遊んでから来ていただけると、より楽しめると思います。それで、「すげー! FFの世界だ!!」って思ってもらえたら嬉しいです。あと、『FFXIV』の世界で成長したら、僕もまだ解けてないクエストが山ほどあるので、ぜひ一緒にパーティを組んで遊んでください。

吉田 : SCRAPのリアル脱出ゲームファンのみなさんは、ZEPP TOURを本当に楽しみにしていたと思います。なので、まずはリアル脱出ゲームファンに真っ先に遊んでいただきたいです。その上で、『リアル脱出ゲーム×FINAL FANTASY XIV 大迷宮バハムートからの脱出』はFFシリーズのファンだったら、FFに熱中した頃のアツい思いが蘇ってきて、本当に楽しめるように作ってあります。FFシリーズでもオンラインゲームの作品だけはやってないという方もいらっしゃると思いますが、「あまり『FFXIV』をやってないから…」とは思わず、ぜひチャレンジしてみていただきたいです。それと、『FFXIV』プレイヤーのみなさんがニヤッとできるところも、多々仕込んでいただいています。ぜひ、リアル脱出ゲームに挑戦して、光の戦士の“超える力”で大迷宮バハムートから脱出していただければと思います。

加藤 : みなさん、そろそろ『FFXV』が終わる頃だと思うので、一回『FFXIV』に戻って、リアル脱出ゲームに来ていただいたらちょうどいいかな(笑)。

吉田 : 『FFXV』も発売されましたが、『FFXIV』はアップデートパッチがガンガン入るゲームなので、「我々『FFXIV』が最新のFFだ!」といえるくらいの覚悟で作ってます。『FFXIV』はフリートライアル(sqex.to/ff14ft)などもありますので、リアル脱出ゲームでFFシリーズの世界観にちょっと触れていただいて、『FFXIV』も気軽に遊んでいただければと思います。

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