リアル脱出ゲーム×『Fate/Grand Order』始動――! 2018年5月11日より、原宿ヒミツキチオブスクラップの東京公演を皮切りに、全国5都市で『謎特異点Ⅰ ベーカー街からの脱出』が開催される。開催を記念して、リアル脱出ゲームを企画運営するSCRAP代表・加藤隆生氏と FGO PROJECTクリエイティブプロデューサーを務めるディライトワークス・塩川洋介氏の対談が実現。謎特異点はいかにして生まれたのか?それぞれのゲームの魅力とは?とことん語ってもらった。
ーー『謎特異点Ⅰ ベーカー街からの脱出』はどのようにして生まれたのでしょうか。
ディライトワークス·塩川洋介(以下、塩川)私がリアル脱出ゲームを遊んでみて、衝撃を受けたことがきっかけです。リアル脱出ゲームの存在自体は以前から知っていたのですが、積極的に外に出るタイプではないので遊んでみたことはなかったんです。でも2017年夏に『忘れられた実験室からの脱出』に誘われて……感銘を受けました。
SCRAP代表·加藤隆生(以下、加藤)おお! 初めてのリアル脱出ゲームはどうでしたか?
塩川見事に脱出失敗しました(笑)。最初に抱いていたイメージは、クイズを解いていくようなもの。でも実際にやってみたら全然違って、世界観やストーリー性があった。「これはFGOでやれたらいいんじゃないか」と思ったんです。
私たちがFGOでやりたいのは、日常を過ごしているプレイヤーに、非日常的な世界でマスターになってもらうことです。それは原典であるゲーム『Fate/stay night』の物語の時点で内包されている要素だったと思います。リアル脱出ゲームは、まさに現実世界で遊べるゲーム。みなさんにマスターになってもらい、ゲームの世界を「会場」という現実世界で体験できるのではないか……そう考えて、企画が動き出しました。
加藤2017年の9月ごろに「コラボをやりたいですね」という話をいただいた記憶があります。
塩川そうですね。その前にTYPE-MOONさんとの定例ミーティングで、「やりたいことがあるんです!」と提案しました。奈須(きのこ)さんはリアル脱出ゲームをやった経験があって、「確かにFGOと親和性があるかもね」と賛同してくれました。
さらにFGOとリアル脱出ゲームのつながりを感じるポイントがありまして。FGOはずっと「同時代性」というものを意識してきています。スマートフォンの中のゲームですが、Twitterで盛り上がったり、リアルイベントを行ったりと、「現実世界とのつながりの中で遊ぶこと」を重視しています。リアル脱出ゲームも同時代性がありますよね。
加藤なるほど。リアル脱出ゲームは「今この瞬間から、1時間以内に脱出してください。さもなければあなたたちは死んでしまいます」――というのが基本構造。その1時間は、現実と物語の中の時間が完全に一致したものになっている。このリアルタイム性は、FGOが目指している中長期的な同時代性に近いものがあるかもしれませんね。
◆「謎特異点Ⅰ」が“出現”するまで
ーー「謎特異点Ⅰ」のコンセプトやストーリーはどのようにして決まっていったのでしょうか。
加藤まずは「どこに閉じ込められるのが一番『FGO』らしいのか」をとことん議論しましたね。これまでの『FGO』にない舞台設定案も含め、100案くらい出たと思います。あれこれ考えつくした結果、FGO本編の重要な要素である「特異点」というワードに戻ってきました。特異点とは、人類史という大きな流れの中での“ターニングポイント”。その特異点の問題を解決することはすなわち、特異点からの“脱出”です。謎に踏み込んだ特異点ということで、「謎特異点」というキーワードが決まりました。
そして「謎を解く」ということに関して、おそらく世界で一番有名なキャラクターがFGOには登場している。そう、シャーロック・ホームズです。彼が現れるのに最も適切な特異点はやはりベーカー街でしょう。
塩川SCRAPさんは本当に数多くの脱出ゲームを作っていますが、意外と「シャーロック・ホームズ」や「ベーカー街」をど真ん中に据えたタイトルはなかったんですよね。巡り合わせを感じました。
加藤そうそう、『名探偵コナン』や『大逆転裁判』とのコラボで探偵やホームズは登場したことはありますが、意外にメインで扱ったことはありませんでした。
今回のコンセプトは「ベーカー街からの脱出」。舞台は19世紀末のロンドンで、ホームズからと思われる通信によってマシュとマスターであるプレイヤーがレイシフトする。そこでマスターは「特異点を60分以内に修正できなければ、特異点ごと消失する!」と宣言されてしまう……。マスターは自身のサーヴァントと協力し、時にはとあるサーヴァントと敵対しながら、特異点からの脱出を目指します。
塩川6人1チームで、1人のマスターにつき1騎のサーヴァントが付く形です。この6騎のサーヴァントを選ぶ会議もすごく白熱した思い出がありますね。
加藤2時間近く討論してました! 印象的だったのは、会議の参加者が全員めちゃくちゃ楽しそうなんです。書記をしていた女の子も途中からギラッと目を見開いて「そのキャラはそんな行動をしないと思います!」と言い出す(笑)。「なるほど、これがFGOをFGOたらしめている強さなんだ」と実感しました。キャラ個人の設定や性格はもちろん、他キャラとの関係性もあって、ストーリーの中での配置が決まっていくというか。
塩川人気があるキャラクターを前面に出せばいいというわけではないんですよね。「なんでこいつがここにいるの!?」と疑問に思ったりしても、遊んでみると「ああ、こいつはここにいるべきキャラなんだ」と思うようなメンバーになっているのではないでしょうか。納得感と意外性をやり続けることが、「FGOらしさ」につながっていると思います。
◆リアル脱出ゲームとFGO、それぞれの魅力
ーー塩川さんはリアル脱出ゲームにハマったとおっしゃっていましたが、加藤さんはFGOをプレイしたことはあるのでしょうか?
加藤やってますよ! きっかけはSCRAPの社員です。ドハマリしている人たちがいつもキャッキャしゃべっているんです。興味をもって始めてみようかなと思うと、彼らに「加藤さんは遅いっす、2016年末の第1部完結の波に乗れてないなんて……」と煽られる(笑)。そんなやりとりを何回か繰り返したあと、飲み会で「いいや、俺はもうダウンロードする!」と叫んでとうとう開始しました。めちゃくちゃ印象に残っているのが、1回目の10連召喚でマーリンが出たんですよ。
ーーそれは……羨ましいです。
加藤今ならそれがどれだけ運がよかったのかわかるんですが、当時の僕は事の重大さをわからずに、「こんなの出たよ~」と社員たちにLINEで報告したんですね。そしたらもう「なんなんだ!」「物欲センサー!」とメチャクチャに文句を言われた。わけもわからずもう10連を回したら、またマーリンが出ました。その“奇跡”がハマる1つのきっかけでした(笑)。
でもハマった一番の理由は、物語を読ませる力の強さですね。次から次へと先を知りたくなるような展開と、大きくなった期待をきちんと回収して終わるラスト。長い小説を毎日読んでいるような体験が新しかったです。1つの特異点が終わるたびに、「あの章最高だったね!」と人に言いたくなる。物語を楽しむために、会議中も種火や素材をそっと集めてました。
塩川仕事に悪影響を与えてしまってすみません……(笑)。
加藤大丈夫です(笑)。キャラクターの演出も非常に優れていて、ストーリーやバトルを通してキャラへの愛が育まれる仕組みになっているんですよね。初めてストーリーでマーリンが出てきたときに、すっごく嬉しくなっちゃいましたよ。「俺たち、めっちゃ仲いいじゃん! 王の話を何百回も聞いたよ!」と言いたくなった。
このキャラクターの強さは、リアル脱出ゲームにはなかなかない要素と感じました。リアル脱出ゲームは構造であって、キャラクターはあまりない。主人公も「主人公というキャラクター」ではなく「あなた」です。対してFGOは物語に対してキャラクターが配置されているので、ゲームを進めることでキャラとの距離がすっと近くなる。そこが面白いです。
ーー塩川さんから見たリアル脱出ゲームの魅力はどのようなものでしょうか。
塩川本質は「ごっこ遊び」ですよね。ごっこ遊びは大人になったらなかなかできないし、無心にできる場所はない。でも「1時間で脱出しなければいけない」という革命的な制限があることで、一瞬で引き込まれて真剣にごっこ遊びができるようになっている。普段だったら恥ずかしいようなセリフや行動が自然とできてしまうところがすごい。
加藤ごっこ遊びって、実は非常に矛盾が生じやすいんですよ。例えば「鬼ごっこ」も、「タッチすれば鬼になる」という簡単な見立てですが、その世界のルールの中で「鬼とはなんなのか?」を追求しないと、物語を付与するのは難しい。ごっこ遊びの中で矛盾があると、とたんに没入できなくなってしまいます。
ごっこ遊びを守るのは、その世界の中で「起こらないこと」は起こらないし、「起こること」は絶対に起こるという信用です。会場や人件費の都合などがあったとしても、その信用を裏切ってはならないと一番気を付けているかもしれません。そこを信じてもらえれば、リアル脱出ゲームは没入すればするほど脱出への道――真実が見えやすくなるようにもなっています。
塩川「謎特異点Ⅰ」では、みなさんに無心で「マスター」を体験してほしいですね。
加藤そうですね。遊んだ人が「マスターってこんな感情が芽生えるんだ」「マスターってこういう肉体の動きをするんだ」という改めての発見をしてくれるといい。リアル脱出ゲームを体験する前と後では、FGOをプレイするときの感覚が違う――と思ってもらえるようになればベストですね。コラボものはいつもそうなってほしいという思いを込めて作っています。
塩川それって、TYPE-MOONさんのキャラクター作りに近いような気がします。登場する英霊にはゲームの中でレアリティこそありますが、全員が主役級。全て同じ労力をかけてキャラを作っています。このキャラクターたちをどうやったらもっと好きになってもらえるかを根底に、ゲームが組み立てられている。ストーリーはもちろん、ゲームの中でマスターとして過ごした時間があることで、好きじゃなかったキャラがいつの間にか好きになっている。リアル脱出ゲームでも、マスターになる体験を経てからもう一度スマートフォンに帰ってきたときに、よりサーヴァントへの愛情が上がる相乗効果があるといいですよね。
◆「謎特異点Ⅰ」は“新しいFGO”
ーー最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
加藤「面白いものがあるから、ぜひ来てください!」ですね。FGOに初めて触れる人でも面白いし、大好きな人なら絶対に楽しめる。もしあなたが日々の生活に退屈しているなら、素晴らしいキャラと物語に出会えます。
リアル脱出ゲームのコラボ公演は、そのIPを大好きな人が制作・監修していますが、謎特異点もスタッフの愛が詰まっています。僕自身もすごくハマったゲームなので、個人の言葉として胸を張って「面白いものができたよ!」と言えます。
塩川FGOのマスターのみなさんの中には、リアル脱出ゲームを初めて知った人もいるかもしれません。まず言いたいのは、「1人でも怖くないよ!」。リアル脱出ゲームは1人で遊びに来てもプレイできるシステムになっています。
加藤会場で偶然出会った人と組んだ“即席のパーティ”で冒険に出るのも、より強い物語体験になるはず。友情と出会いはリアル脱出ゲームの醍醐味。臆することなく遊びに来てほしいです。
塩川最後に伝えたいのは、今回の謎特異点は、ただIPを貸し出した単なるコラボではないということ。FGO PROJECTの一環としての起案からはじまり、奈須さんはじめFGOのライター陣にもシナリオを監修していただいている、『FGO』なんです。リアル脱出ゲームという形で“出現”した新しいゲームプロジェクトを、ぜひ楽しんでもらいたいです。