3月11日から10月2日まで「後楽園ヒミツキチオブスクラップ」で開催されるリアル脱出ゲーム「ある病院からの脱出」。映画「アイアムアヒーロー」が4月23日に公開されるのを記念したコラボ公演となり、本物の廃病院に、作中のゾンビのような存在「ZQN(ゾキュン)が人類を脅かすパニックホラーの世界を具現化してしまう。
あなたはヒミツキチ病院に配属された研修医。気合を入れて臨んだ新人研修初日、周囲の人間が感染症に侵され「ZQN」となり襲いかかってきた。病院内の謎を解き明かしながら「ZQN」になることなく無事に脱出できるだろうか——!?
このたび「ある病院からの脱出」のデバック(※ゲームの改善点を見つけるテストプレイ)を、「アイアムアヒーロー」の原作者である漫画家・花沢健吾と、リアル脱出ゲームの生みの親であるSCRAP代表・加藤隆生が体験。直後にゲームの内容を振り返りながら、2人がパニックホラーという非日常をそれぞれ“漫画”と“リアル脱出ゲーム”でどのように作り出してきたのか語り合った。
──今回2人とも同じチームでデバックを体験してみていかがでしたか。
- 花沢
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いやーもう、ほとんど何も活躍できずうろうろしているだけで…… 原作者としてちょっとまずいなという感じでした。リアル脱出ゲームは「かくれ鬼の家からの脱出」も体験したんですが、あっちはまだ比較的簡単で気が抜ける瞬間はあったけれど、こっちは相当難しかった(笑)。ゲームが完成したらうちのスタッフにもやってもらおうと考えていたんですけど、クリアできない難易度だと思います。
- 加藤
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ぼくも主催側とはいえゲームの内容は3割ぐらいしか知らなくて。知らないところは自分の考えを口に出して、知っているところは黙るって感じで参加しました。
- 花沢
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一緒のチームにいたうちの編集さんがほとんど解決しちゃいました(笑)。
──「アイアムアヒーロー」の世界観を反映した廃病院を動き回るって、原作者としてはどうでしたか?
- 花沢
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実際に廃病院を歩いてみると人は意外にもパニックに陥るものなんだなと、体験ならではのリアリティを実感しました。狭いドアを行き来したり、普通にじっとしているだけでもどきどきしたり、そういうのでさらにパニックが大きくなっちゃいます。
死体のリアリティを求めて富士の樹海へ
──花沢さんが漫画家になった経緯はどのようなものだったのでしょう。
- 花沢
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単純に昔から漫画が好きだったんです。ほかにやりたいことがなかったので、23歳のときになんだかんだ描いてみた漫画を賞に出したら賞が獲れて。そこからなんだかんだ、いつの間にか漫画家になれたって感じですね。
──その初受賞が1997年。2004〜2005年に「ルサンチマン」を初連載、2005〜2008年に映画にもドラマにもなった「ボーイズ・オン・ザ・ラン」、そして2009年から「アイアムアヒーロー」を連載し続けています。本作を描くにあたって何かテーマはあったんですか?
- 花沢
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「恐怖」をテーマに考えていました。連載前の準備段階で編集さんとずっとしゃべっていたら、ぼくが異常に怖がりだということを編集さんが指摘してくれて。そうだったらホラーを描いてみたら、と言われたのが描いてみるきっかけでしたね。
- 加藤
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怖がりの人って、ホラーを描くのが上手なんですか?
- 花沢
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どーなんでしょうねぇ。ぼくは何に対して怖がっているのかもわかんないくらい怖がりで。夜になると未だにうつ伏せで寝るようにしているんですよ。仰向けだと最初に目を開いた瞬間に何かを見ちゃうかもしれないじゃないですか。
- 加藤
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いやいや、「じゃないですか」って言われても(笑)。
- 花沢
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ちっちゃい頃から異様な怖がりで、未だに続いている習慣ですね。そうした自分の弱点が漫画を作る上で武器になるんじゃないかと言われていたので、苦手なりにやってみようかなと。自分が怖いと思っていることを描けば、人も怖がってくれる作品になるかもと今では思っています。
──怖がっているものを作品に落としこむときにこだわっているところは。
- 花沢
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なるべく経験してみることです。今回はゾンビものだったので、最初は死体がどういうものなのか実物をとにかく見たかった。病院とかに「死体見せてください」ってお願いしたんですけど、今はけっこう厳しいみたいであちこち断られてしまいました。じゃあ、とりあえず富士の樹海に行ってみようとなって。
- 花沢
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普段から富士の樹海で遺体を探している人に付いて行ったんですけど、遺体を収容した後に残っていたような骨しか見つからなくて。でも遺品と思われるメガネとかも落ちていたりして、そういうのをリアルとして体験しました。あとは腐敗臭とはどれくらいなものなのか、特殊清掃の方に同行して、遺体のあった部屋の死臭を嗅いでみたり。思ったよりは大丈夫だなとか、生活臭と一緒になっちゃっていて死体だけの匂いじゃないなとか。そうして得た実感を積み重ねていくことで作品を作っていきましたね。
リアル脱出ゲームにある漫画にない“没入感”
──加藤さんは自身の体験をリアル脱出ゲームに入れたりは?
- 加藤
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逆に日常で体験できることは当たり前過ぎるので、物語の中で感じたことや非日常を、いかにリアル脱出ゲームで具現化するか考えることが多いかもしれない。
- 加藤
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「アイアムアヒーロー」を具現化する上では、特にZQNの使い方を意識しました。作品でZQNという存在は大きなキーワードであり、こちらにとってもプロジェクトを進める上で最大のモチベーションであったので、ゲームに使わない手はない。ではどうやって使っていくか、特性を生かしていくかというのをとにかく考えながら来ました。
──花沢さんはリアル脱出ゲームに、漫画で出せない魅力を感じたりしましたか?
- 花沢
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前回の「かくれ鬼の家からの脱出」でも、ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、参加者があることをするのですが、それがまるでホラー映画の世界に自分が入った感覚があって。そうした作品への没入感がすごく新しいなと。
- 加藤
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一番うれしい言葉ですね。もともとぼくは子どものころから、本の中に入りたい、物語の中に入りたいとずっと思っていた人間で。そういう体験を日常にどうやって作り出すか考え続けた結果、このリアル脱出ゲームという遊びにたどり着いたんです。「アイアムヒーロー」もZQNが広まっていく狂気や恐怖、広く言えば非日常が、日常の延長線上にすっと口を開いて待っている。ぼくらのリアル脱出ゲームの作り方と通ずるところがあるのかなと感じています。
廃病院と「アイアムアヒーロー」の奇縁
──そもそも今回のコラボはどのようにスタートしたのでしょう。
- 加藤
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一番最初に、リアル脱出ゲームの常設会場にこの廃病院が使えるという話があって。これはホラーよりの謎解きゲームを作ろうかと話をしていた一週間後、たまたま映画「アイアムアヒーロー」の試写会に誘っていただいたんです。見てみたところ、どんぴしゃすぎるなと(笑) これはコラボしなさいと神様が言っているのかなと思って、「すごい場所があるんです」と担当者に一緒に見に来てもらい、今に至ります。
──素晴らしいタイミングの良さですね。またどうしてこの廃病院を使えることに。
- 加藤
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ここのオーナーさんがリアル脱出ゲームのファンだったんです。
- 加藤
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3つのリアル脱出ゲームを行っていた「渋谷ナゾビル」というビルが、オーナーさんの都合で売却されることになってしまって。閉店の告知を会社のオフィシャルサイトに載せたところ、廃病院のオーナーさんが「そういうことなら私のビルに!」って連絡してくれて。半信半疑で見に行ってみたら「うおーこれすごいじゃん! どうする!?」って興奮した一週間後が、「アイアムアヒーロー」の試写会。
- 加藤
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フロアの壁紙や「診察室」といったドアの札など、基本的には残されていた病院のままをゲームに使っています。今後はゲームの難易度に応じていろいろと手を加えたりはするかもしれませんが。
- 花沢
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もともとぼくは病院の重苦しさが嫌なんですよね。あまり病気になったことがないから来た体験が薄いのもあれば、どうしてもマイナスなオーラをなんとなく感じちゃうんです。この会場もなんかいやですね(笑)。
──そんな空間で謎解きに挑むわけですけど。
- 花沢
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だからねぇ──(ため息しながら)。4人組じゃなく1人だと謎解きなんて余裕は一切ないまま終わっちゃいそうです。この病院内を歩く世界観自体が、ぼくにとっては違和感というか不安がある。そこから謎を解けと言われても、なかなか平然とはできない(笑)
「ある病院からの脱出」に向けて
──花沢さんは映画を見られてどうでしたか。
- 花沢
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漫画はどうしても平面の中に描かれているので、ちょっと視線をそらせば作品世界の外へ出られちゃうけど、映画はそこから引き込まれる。そこに漫画のキャラクターが実写となって動いているのを見たら、リアル脱出ゲームとは違う没入感がありましたね。
──映画化からリアル脱出ゲームと、「アイアムアヒーロー」がプロジェクトとして広がっているわけですけど。
- 花沢
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なんでしょうね……一旦自分から作品として離れていけば距離感があるもので、作品がそこまで自分につながっていない、蚊帳の外感があります。そんなものなのかなぁと。プロジェクトが大きくなってくれれば当然ぼくにもちゃんと見返りがあるので、あとはそれに期待しつつ、自分は漫画に集中して描いていくだけですね。
──最後にお二人から、「ある病院からの脱出」へのコメントをお願いします。
- 花沢
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ぼくはゲームに参加してみて、今回ほとんど役に立たなかったので(苦笑)。たとえもう一度参加したとしても、ちょっと厳しそうな気がします(笑)。いまから完成が楽しみです。
- 加藤
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主人公がZQNを見つけたとき、死体を発見しときってこんな気持ちだったのかなぁ、という思いが自分の中に芽生えて、家でもう1回漫画を読んでみたら、また違った読み方できる。そんな体験が確実にできる作品になろうとしているので、ぜひ楽しみに遊びに来てください。特に原作ファンの人は本当に楽しいと思います。
(Text:黒木貴啓/Photo:関口史彦)