ストーリー
「卒業生が入場します。皆様、拍手でお迎えください」
ふと気が付くと、自分は卒業式の体育館にいた。
体育館の中に、マイク越しのざらついた声が響く。
「在校生、送辞」
自分は、卒業を目前に控えた、藤山高校の3年生。
胸元にコサージュを付け、紅白幕で飾られた体育館の床を上履きで歩き、今こうして冷たいパイプ椅子に座っている。
らしい。
「卒業生、答辞」
しかし……
自分は、この卒業式に、まったく覚えがなかった。
隣に座っているクラスメイトの名前も、自分がなぜここにいるのかも、何もかも思い出せない。
「卒業生、合唱……」
ぱん。
突如として、何かが爆ぜるような音と共に視界が暗転し、どさりと重みのある衝撃が体育館の床越しに伝わった。
「何か」によって、突如として中断された卒業式。
次の瞬間、体育館のスクリーンに、謎の少女が現れた。
「卒業には、まだ早いよ」
謎の少女は告げる。
覚えのない、しかしどこか懐かしい声で。
「このまま卒業するには、思い出も記憶も、まるで足りてない。そうでしょ?」
自分にはわからない。
この少女が誰なのかも。
自分がなぜここにいるのかも。
この卒業式に何があったのかも。
「さっき派手に倒れた人の名前、思い出せる?」
「きょうの日付は?」
「休日にみんなで行った映画館の名前、ならどうかな」
「わからないか」
「わからないよね、今の君には」
「わからないままでいいって言うんなら……」
一切の記憶が抜け落ちた、空白の卒業式で。
彼女の声が、宣告のように響いた。










