はじめて貧乏旅行に出たのは高校卒業してすぐ、さすがに1人で行く勇気がなく、いつも石原裕次郎みたいなサングラスかけてて、タバコとギャンブルが大好きで、じゃあ不良なのかって言うと案外真面目に勉強してて成績もよくて習いごとはハープというヒロシを誘って行きました。誘った理由は、4人いた友人の中にタイ料理好きなやつが彼しかいなかったから。ヒロシにもヒロシのおばあちゃんにも、大丈夫、危なくないです。ホテルも安いけどちゃんとしたとこです。と嘘ついて、ほんとは宿なんか取らないで行きました。

到着早々たかまるヒロシ。自分の写真撮りまくるヒロシ。裕次郎グラサンでかっこよくキメたヒロシを撮りまくらされるいけ。いま振り返っても、なぜここで写真撮ったか、と疑問な写真ばかり。オレたちゃバックパッカー、浮かれた観光客とは違うんだぜ。と、こっちはこっちで恥ずかしい勘違いしてるもんで、ヒロシ撮影会にイライラ。
ひとしきり自分撮影会に満足し、タイ料理食おうぜ!と意気揚々のヒロシ。小洒落たカフェでグリーンカレーを裕次郎風に斜に構えかっこよく注文。
しかし、はじめてのタイ初日、ヒロシが元気だったのはここまで。
届いたグリーンカレーを裕次郎風にかっこよく食べた、そのとたん、苦悶に顔を歪めるヒロシ。あ、辛いんだ、と気づきつつも自分が頼んだやつは美味いいけ。そのあと一口も食べないヒロシ、食べるいけ。食べないヒロシ、食べ続けるいけ。いけの皿が空になったと同時にヒロシが沈黙を破る。
「お前、なんで、オレ食わないか、聞かない?」
(え?片言?)「辛かったからでしょ?」
「辛かった、わかってる、なんで、聞かない?」
(え?だからなんで片言?)「いや、わかってるから聞かなかった。」
「吉牛。」
(え?)
「吉牛食わせろ。」
「吉野家のこと?」
「この世に吉野家以外の吉牛があるのか、オレは知らない。」
(片言直った!)「いや、まだ初日の最初の食事だよ?これから一月近くいるのに今からそんな…」
「違う、オレ、今、吉牛、食いたい、それだけ」
(あ、片言…)

バックパッカーたるもの、メシは屋台で!贅沢は敵!カフェとかみっともない!と募るイライラがピークに達するも、このあとほんとはホテル取ってないことも伝えねばならぬ故、わかりました。吉野家探しましょう。と、地球の歩き方をめくるいけ。載ってるわけねーよな、とめくるめくるめくる、あった!地図に吉野家発見したことにテンション上がって、やや修復された2人の仲、
「よしバスで行こう!」「は?タクシーだろ?」2秒で決裂。
あいだ取って三輪タクシートゥクトゥクにいやいや乗車。人生初の運賃交渉。後にものすごくふんだくられてたと判明する額で地図の吉野家付近に下車。
人生初トゥクトゥクにたかまり、また若干修復された2人の仲。しかし見つからない吉野家。もう歩きたくない。2分で決裂。
「ふざけんなよ、日本なら吉牛なんて2分で見つかるのによ。」
「いや、ここ日本じゃないですし日本でも2分おきに吉野家なんてないですし。」
「敬語やめろよ」
「そんなに吉野家行きたいなら今から日本帰ったらいいんじゃないですか?まだ飛行機ありますよ」
「敬語やめろよ」
「自分じゃなんにもできないみたいだから飛行機取りましょうか?」
「敬語やめろよ、吉牛あきらめるから!」

(あ、片言完全に直ってる…けどどうしよう、こっちもキレてしまった、このあとホテルなんて取ってないって言わなきゃいけないのに。こいつに責められんのとか、やだなぁ…)

唐突に始まりました、いけ旅行紀。飽きるまで続けてみようと思います。
ちなみにアジトオブスクラップ、年内の営業終了致しました。7月のオープンからほぼ毎日満員のお客様に来て頂き、現在561組が閉じ込められ、無事謎の部屋から脱出したのは40組、脱出成功率は7.1%です。年始の営業は4日から。1月もかなり売り切れて来ておりますが、謎の部屋未体験のお友達にはぜひ教えてあげてください!来年は新作もやる!はず!来年もアジトオブスクラップをよろしくお願い致します。


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