常設型リアル脱出ルーム アジトオブスクラップ ”本当の密室に閉じ込められる”リアル脱出ゲームを体験できます。しかもほぼ、毎日。

アジトオブスクラップとは?

アジトオブスクラップ東新宿 GUNKAN

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〒169-0072
新宿区大久保1-1-10 GUNKAN東新宿301,302,401
TEL 03-6233-9868

2012年1月アーカイブ

言葉より大切なもの

なぜ突然、自身のアジア放浪記など書き連ね始めたか。

『上海でも「謎の部屋からの脱出」公演が開始するからです!!』

自身のアジア放浪体験から今回の上海訪問へ、りょうまも大人になりまして放浪じゃなくって、アジトつくりにアジア来たんだぜ!と、きれいに話を繋げるつもりだったんです。あ、りょうまってのは私の下の名前で、よく「ご両親が坂本龍馬お好きなんですか?」とか聞かれるんですが、私が生まれるときに両親が渋谷で喫茶店を経営しており、常連さんが近くの大学の「龍馬の会」というサークルのメンバーで「子供生まれたら男でも女でも龍馬にしてね!」と言われていたから、というのが由来だそうです。家族揃って龍馬好きは一人もおりません。そして男に生まれて一安心です。ところで私も、私が生まれた時の父親の年齢はとうに越してしまい、20代で渋谷で喫茶店経営してたなんて、うちの親、なかなかすげーなー。って尊敬したりします。
と、まあこのように、私は文章を書き始めると話が次々それて行き、どんどんどんどん文章が長くなってしまうのです。本当はアジア放浪記をきれいに終わらせてからかっこよく発表したかったのですが、残念ながら間に合わなかったので、今日発表します。

『2月12日(日)より上海でも「謎の部屋からの脱出」公演が開始します!!』

「オレは未来の話、しかも自分が体験したことのないことの発表であんなに喜べたことはない」
「ヤバかったッス!マジすごかったッス、中国の人!あー写真撮ればよかったー」
上海にて「謎の部屋公演」を発表した際の中国のお客様の様子を、それぞれ弊社社長と弊社ハスヌマがこのように語っています。
おかげさまでチケットも4月末まで売切れ!とのこと。ありがたいお話です。
現在、東新宿で行っている「謎の部屋からの脱出」と同内容の公演なので、すでにご参加頂いたお客様にはご参加頂けませんが、まだ「謎の部屋」未体験で上海に行く予定のある方は予定に組みこんでみてはいかがでしょうか?あ、謎は全部中国語ですけども。そして上海にお友達のいる方はどうかオススメしてください!謎、中国語ですけども!
というわけで、東京だって負けてられないよ、と、もうひとつお知らせがあります。

『東京でも「謎の部屋からの脱出」公演を延長します!!』

すでに「謎の部屋からの脱出」にご参加頂き、アジトオブスクラップ第二弾公演に期待を寄せてくださっているお客様、大変申し訳ありません。
「アジトオブスクラップってずっとやってると思ってたのに2月で終わるとか聞いてない」「ずっとチケット取れなかったからまだ行けてないのに」というお問合せを本当にくさん頂きましたので

『東京での「謎の部屋からの脱出」を5月6日(日)まで延長します!!』

ところで2月末で終了というご案内の際「アジトオブスクラップ終わんのか!常設じゃないのか!」というお問合せが多々ありましたので、ここでもう一度説明しますと「アジトオブスクラップ」は"常設型リアル脱出ルーム"の名前。「謎の部屋からの脱出」はその"第一弾公演"の名称です。2月で終了と聞いて予定を調整し慌ててチケットお取り下さったお客様は、閉店セールって言っといてなかなか閉店しない商店街のブティックみたいなことしやがって!と思われることでしょうが、その悔しさを抱え脱出にぶつけに来て頂けると幸いです。そして今度こそ、本当に、5月6日で「謎の部屋からの脱出」は終了となります。3度目の閉店セールはかっこ悪いので絶対しません。いや、2度目でもかっこ悪いかもしれないけど、だって上海でも始まるのに東京が終わっちゃうなんてなんかさみしいし...そして自分で言っちゃうなんてかっこ悪いの上塗りみたいですが、でも言いますが「謎の部屋からの脱出」って本当に楽しいと思うんです。だからひとりでも多くのお客様に脱出しに来てほしいのです。

チケット発売は2月5日(日)12時です。

「謎の部屋」未体験のお客様、5月6日までに絶対脱出しに来て下さい!
「謎の部屋」体験済みのお客様、もう少々ご辛抱ください!そしてお友達にどんどんご紹介頂けるとうれしいです!

チケット発売は2月5日(日)12時です。

文中太字のところは大事なことなので2度言いました!
あまり大事なことではないですがタイトルは嵐でいちばん好きな曲です。それかStep and Goかどっちか。
というわけで本年もアジトオブスクラップをよろしくお願い致します。

アジトオブスクラップ店長いけ

目的地はないんだ

その宿に泊まっていたのは我々の他に6人、そのうちリビングルームにいたのは我々の進学予定の大学の3年生(女)、関西の年齢不詳フリーター(男)、法政大学の2年生2人組(男)の4人、プラス宿の外の道に金髪美青年でした。
リビングの酒とタバコと初対面の臭いにやられた私は、先に泊まっていた皆さんの、おいおいやめとけよ、という目線をよそに、金髪の彼に声をかけてみることにしました。なぜなら彼はずっと、私の好きな曲を演奏していたからです。
「こんにちは、日本の方ですか?」
「金髪だけど日本人ですよ。はじめまして。」
「(なんだ、感じいいじゃん...)レディオヘッド、お好きなんですか?」
「あ、知ってます?この曲?」
「はい!CREEPですよね。レディオヘッド、大好きです」
「あ、ぼくはそんな好きじゃないんですけどね。この曲は歌詞がいいよね」
「(好きじゃないのか...しかも歌詞意味わかんない...)、あ、そうっすね!トムヨークっていい歌詞書きますよね!」
「あの歌は、ぼくらみたいな負け犬の心を代弁してくれるからね」
(ん?「ぼくら」?初対面なのにダメ認定されたー。てかそんな歌詞なのかー。)
「じゃ、歌ってよ」
(!!!)
「ぼくがギター弾くからさ、君、歌ってよ」
「(え、なに?スナフキン?実世界でほんとそんなことする人いんの?)いや、無理っすよ!英語、わかんないっすもん」
「でもほら、いい歌詞だって言ってたじゃない。(イントロスタート)恥ずかしがらないで、さぁ」
「あ、いやほらほんとほらそんなもう絶対ムリですー(話しかけなきゃよかったしいつのまにかタメ口だしでも感じ悪くないしでも感じ悪くないとこがまたなんか悔しいー)ふふふんふんふん♪」ハミングで歌いだす私。ニヤついてこちらを見やるヒロシ。止まらぬ演奏。止まらぬいけの歌声。止まらぬヒロシのニヤつき目線。
「(ヤバいぞヤバいぞ、やめどころ分からんし、まもまくサビ突入だし、さすがにサビは歌詞もわかっちゃうぞ)ふ、ふ、ふ、ふーふん、ふ、ふ、ふ、ふーふーん、バ、ライマークリープ♪」歌っちゃったー!英語で、歌っちゃったよー。

日常の何気ない時間、たとえばチャリこいでたり電車乗ってたり、そう言う人ごみの中に独りの時に突然、え?やだなに?あの時の自分なんであんなこと言っちゃったんだろ?あんなことしちゃったんだろ?と、自分の恥ずかしい過去体験が鮮明に蘇り、うああああ、穴があったら入りたい。どなたか今すぐ穴をください、みたいな気持ちになる時があります。私はこの現象を思い出しうああ、と名付けており、異国で初対面の人のギターに乗せてレディオヘッドを口ずさんでしまった自分、という記憶は未だに思い出しうああのタネとして、突発的に脳裏に蘇ります。

金髪の彼は私よりひとつ年下。ふつうに生きていればまだ高校生の年齢でした。
しかし彼は中学卒業後に工場でアルバイト。貯めたお金で単身アメリカに渡り英語学びながらアルバイト。貯めたお金でアジア放浪中。渡米の理由はパンクロックが好きだから日本にいちゃいけない。という経歴の持ち主でした。
完全に、カッコイイ!
今思うと、いやいやそんなうまい話あります?ほんとはいいとこの息子で渡米の時とか親御さんからご支援頂いたんじゃありません?てかパンクロック好きならイギリスなんじゃない?といくらでも穿った見方もできるのですが、当時の私は完全に彼に心酔しました。

「パンク僕も好きです!ハイスタ全然チケット取れないから、ハスキンとかイースタンばっかり観に行ってるけど」
「ハイスタ?は知ってるな、聴いたことないけど。あとは知らないや。日本のバンド?は聴かないから」
「あ、じゃあグリーンデイとかオフスプリングとか」
「あ、その辺はあんま聴かないな、好きな曲はあるけど。ミレンコリンとかノーエフとか」
「あ、もうムリっす。全然わかんないっす。オススメ教えてもらっていいですか?日本帰ったら聴くんで」

音楽を聴くのはものすごく好きですが、人と音楽について話すのはものすごく苦手です。だってこうなるから。そう思っている間もずっとニヤニヤの止まらぬヒロシ。そうこうしているうちにもう一人の宿泊者が戻って来ました。

胸をたかぶらせ走る

翌朝、
サムイで大人の男になるぜ!と意気揚々のヒロシ、を従え列車に乗り北を目指すいけ。
南の島でアバンチュールに賛同したフリをして、自分の行きたい遺跡の街、アユタヤを目指す。刻一刻と、南へ進んでいると信じてやまない笑顔のヒロシ。完全にムカついてるのでまったく心の痛まぬいけ。

ところが、列車に乗るまで気づかなかったが、駅名表示はタイ語、車内アナウンスももちろんタイ語。つまりどの駅で降りたらいいかわからない、その上全然ダイヤ通りに運行しないので、とっくにアユタヤに着いているはずの時間。駅に着くたびに近くの乗客と、「ここアユタヤ?」「違う」のやりとりを繰り返した3駅目の発車ベルが鳴りだしたその時「ここだここだ!」と突然降りるよう急かされ慌てて下車。
しかし何度地図みてぐるぐるまわっても、どうも手元の地図と合致しない道。不機嫌になっていくヒロシ。ちなみにほんとかどうか知らないけれど、タイの文化では人に道を聞かれた時に「知らない」と答えるのは失礼なので、とりあえず自分の思う答えを述べる、と聞いたことがあります。このタイ式親切心によってどんどん混乱するいけ。しゃべらなくなるヒロシ。小1時間さまよい、何人か目のタイ人に道を聞くと「アユタヤなら次の駅だよ」との返答。がびーん。次の列車を調べるも相当先の時間。旅に出る前ヒロシに「タイなんて行きたくない。猿岩石みたいなやつだろ」と言われ「ヒッチハイクなんかしないよ!バカだな」と一笑に付したにもかかわらず、到着3日目でヒッチハイクを試みることに。そんでまたこれがビックリするくらいすぐに成功。トラックの荷台に揺られ風を受け、否が応にも白い雲のようにを口ずさんじゃうシチュエーション。景色の良さとヒッチハイクの成功とこれみよがしの猿岩石ぽさに気分がたかまり、また険悪になりかけた2人の仲も一旦持ち直し、無事アユタヤに到着、したとたん

「おまえ、さっきからタイ人に『アユタヤ』、って聞いてるよな?」
「!!!」
「アユタヤって、お前が行きたいって言ってた遺跡だよな?」
「ん、ふぅぅん」
「サムイに行くんじゃなかったか?」
「ぬ、ぐ、ふふぅぅん」
「お前、オレを騙したな!」
「意外と気づくの早かったね...」

無言のまま今晩の宿探しが始まり、無言のまま今晩の宿にチェックイン。
日本人ばっかり泊まってるゲストハウスがタイには、というか東南アジアにはたくさんありまして、そういうところに泊まるヤツはバックパッカーの中でもナンパなやろうだ!そんな宿には泊まらないぜ!というムダな意識があったのですが、しょっぱなに訪ねた宿が正しくその日本人宿。泊まってるの全員日本人。ものすごく泊まりたくなかったのだけど、沈黙のヒロシを抱えたまま何軒もまわる勇気はなく、この宿に決定。
「おかえりー」
とか言う文化なんですよね。ゲストハウスって。何度も足を運ぶうちに自分の中でも「ふるさとみたい」てな感情が芽生えたりするので今となっては心地いい言葉なのですが、この「おかえりー」を、しかもタイなのに日本語で、初対面の人たちに一斉に浴びせられたもんで怯むいけとヒロシ。しかし2人で部屋にいるのも気まずく、仕方なく共有スペースのリビングルームに出向く。苦手とする「どこ住んでんのー」「何型ー」みたいな初対面トークにあくせくする私、とは対照的に、またひとりうつむいてギターをつまびくヒロシ。ん?ヒロシ、ハープ習ってるけどギターなんて弾けたっけ?とギターの方向に目をやると、黙々とビールを煽るヒロシ越しに、ゲストハウスの外でひとりギターをつまびく金髪の美青年が。
「あ、あの金髪ね、昨日から泊まってるんだけど、話しかけても全然答えないし、会話にも入って来ないし、変なヤツなんだよね」

真っ暗な道を走る

翌朝、
「飯食いに行こう」「ストリップまで体力温存」
「バンコク観光しよ」「ストリップまで温存」
「いや、でもストリップの待ち合わせ夜だよ」「温存」
と、徐々にストリップ、と温存、の2語しかしゃべれなくなっていくヒロシ。

仕方ないのでひとりで屋台でメシ食ったり、寺院観たりして夜になったらパッポンへ。
京大生と合流したとたん饒舌後輩キャラになるヒロシ。イライラが頂点に達したままストリップ到着。

自分が考えていたゲストハウス一泊分の3倍くらいの料金を払って入店。
他の4人は女の子が隣についてくれるキャバクラ風のボックス席に通されたのに、満席かなんかで自分だけ相撲で言ったら土俵間際の砂かぶりみたいな席に通されイライラの頂点の向こう側へ。

ショーが始まり、踊り子さんたちが、爆竹鳴らしたり、笛を演奏したり、これでもかというほど何カ国分もの万国旗が出て来たり、吹き矢で遠くの風船割ったり、する様にいつしかイライラなんか忘れて「すげー!人体の神秘!まじすげー!」と感動の涙すら覚え始めたその時、こちらを向いてバナナをくわえる踊り子さん。バナナを食いちぎる踊り子さん。食いちぎったバナナをそのまま私の方へ吹き飛ばす踊り子さん。吹き飛ぶバナナ。目の前に着地するバナナ。さあ、お食べ。のポーズをする踊り子さん。食えません!てかどういう仕組みで食いちぎれてどういう運動によって吹き飛ばされてんの、このバナナ!ヌメッとしてるし!
と、我に返ったところでショーが終了。みんなのいる席が空いていたのでそちらへ移動。京大生たちにドヤ顔で、どうだおもしろかっただろ。と聞かれたので悔しいし、そもそもお前ら今日も臭いし風呂入んないの?と思いながらも、正直楽しかったス。と懺悔。場にも慣れて来て、楽しまなくちゃ損かな、なんて思いつつも、お店の女の子が飲物オネダリしてくるのは頑に拒み続けていた、そのとき、あまりにも金を出さない私に業を煮やした店の子が、私の財布から千円札を掴みとったのです。
猛烈にキレる私、にキレる店の子、につたない英語でいかにその千円札がこの旅にとって重要な金であるかをまくしたてる私、に殴りかかる店の子。するとオーナーらしきタイ人男性、がやおら登場。ものすごい剣幕で何やらまくしたてながら私の方へ猪突猛進。オーナーの右ストレートが繰り出され、あ、殺されちゃうんだ、自分。こういうのテレビで観たことあるわー。このあと屈強なグラサンの男が出て来て奥まで連れてかれて、さらにボッコボコにされるんだー。死ぬ時って案外あっさり来るのね。とすべてをあきらめたその時、店の子をボッコボコに殴り倒すオーナー。そして私に深々と陳謝。かかったお金を全額お返し頂いて出店。

「オレが守る」
「あ、ん、えぇ?」
死ぬかと思った。やっぱり危険な目に遭うから、こんなところもう二度と来るのやめよう。店を出てすぐそうヒロシに言おうと思っていた矢先、それより前にヒロシの口から飛び出すオレが守る宣言。
「あ、うん、ありがとう。うれしいけどもう来ないようにすれば大丈夫だからさ」
「は?」
「ん?」
「なんでオレがお前守んなきゃいけねーんだよ。お前のせいでマジ危なかったぞ、あの子。」
「え?あ、あの、殴られた店の子?」
「そうだ。オレは毎日あの店に行って、あの子のことを守る」
「ど、どうしてそうなんの...」
「あの女、オレに惚れてるからな」
絶句、という熟語がありますが、人生でこの時ほど、文字通り絶句、したことはありません。
「あの子、ほんとはあんな仕事したくねーんだ。だからオレが守る!だからオレはずっとバンコクにいる。悪いがあとはひとりで旅を続けてくれ!大学も行かない。」
ヒロシくんはまだ高校を出たばかりで職にも就いていないこと。そもそもあの子の方が収入があること。というかあなたただの旅行者だしこのままタイに住むことなんてできないこと。などをとつとつと説明してみるも、のれんに腕押し。
「南の島、サムイとか行けば、もっと簡単に安く女とヤレるぜ」
京大生がそう口を挟んだその瞬間。ピキーン、という効果音がヒロシから鳴り響いた気がしました。
「いけくん、あの子には悪いが、確かに君の言う通り、このままバンコクに住めるわけじゃない。オレもちょっと頭冷そう、明日、サムイ島へ行こうじゃないか。」
「うん。そうだね、わかったよ。明日、サムイへ行こう!」

ヘッドライトの光は手前しか照らさない

そもそも2人で海外旅行いくほど仲の良い距離感でもなかったけれど、それでも中学から6年間同じ学校で一度もケンカなんかしたことなんかなかったヒロシと、到着数時間でここまで仲悪くなるなんて、と沈黙のまま安宿街へ戻る2人。もう、宿取ってないって言うのやめよ。こいつに責められたり謝ったりするなんてまっぴらごめんだぜ!と腹に決めるいけ。

安宿街カオサンに到着し、予約した宿を探すふりをして今日泊まる宿を探す。メシはカフェだしトゥクトゥク2回も乗っちゃったし、まだこの先ひと月あるんだから節約しなきゃ。と、何軒かまわった中でいちばん安い宿にチェックイン。しめしめ、予約取らなかったことはバレてないぜ。

「で、部屋は?」
「ん?ここだけど。」
「ここに寝るのか?」
「そうだよ。」
「これが、部屋?」
「…ベッド、どっち使う?」
「これは、部屋じゃないな」
「あ、奥のベッド使ってい…」
「これは、牢屋だ!」
「あぅ…」
「エアコンもねー」
「いや、それは基本だよ、この先も…」
「扇風機もねー」
「あ、フロントにあるか聞いてく…」
「窓もない!これは牢屋だ!オレは牢屋では寝ない!」
「あのさ、さっきまでなんであんな片言だったの?」「辛かったからだ!」
「あ、なるほどね…」「口がしびれたんだ!ゴキブリ!」
「あ、口がね、辛さでね、あ、うん、いるね、ゴキブリ…1.2.3.4.5匹、くらい、いるよね。気付いちゃってたか…」
完全に形勢が逆転したいけとヒロシ。実は宿など取ってないし、この先どこへ行っても、毎日宿探しせねばならぬ旨を説明し、だがしかしこの旅のスタイルこそ、軟弱な観光旅行とは一線を画す硬派な旅なんだぜ。ヒロシ、硬派好きでしょ?と説得、しかし失敗。

仕方なくこの宿は出て3倍くらいの値段のバンガロー風のこじゃれた安宿へ。そこでこの旅初の日本人に会う。京都大学4回生のめちゃくちゃ男くさい、というか実際に完全に体臭のくさい3人組。

「パッポン行ったか?」
「あ、ちょうどさっき吉野家探しに行ったあたりだよね、ヒロシ」
うなだれてビールを飲み、まったく会話に入って来ないヒロシ
「一発ヤッたか?」
「え?」
「女買わなかったのか。」
「あ、いや、牛丼探しに行っただけでぼくらそういうのはちょっと…ね、ヒロシ」
女買う、のワードに一瞬ピクっと顔を上げるも、会話には入って来ないヒロシ
「なんだパッポン行って女も買わずに帰って来たのかしょーもない。」
「あ、けどほら、病気とかも怖いし、金ないし…」
「ストリップ観たか?」
「いやだからそういうのは僕ら…」
完全に顔を上げ、目を輝かすヒロシ
「明日連れてってや...」
「行きます!」
ここまで無言だったヒロシ、挙手、即答。
「え?行くの?」
「何言ってるんだい、いけくん。先輩方がせっかく連れて行ってくださるというのに、断るなんて失礼じゃないか。さあ、先輩、何時に行きますか?
饒舌!しかもなんかウザい後輩キャラ...

なんで旅先でくさい日本人、しかも男としゃべんなきゃいけねーんだ

女買う?いやちょっと怖いか

ストリップ!ほどよい!めっちゃ行きたい!
ヒロシの心境変化の図です。最初は衝撃的に感じ悪く下向いてビールばっか飲んでたくせに。ずっと辛いもん食ってりゃいいのにこいつ…

こうしてほんとは翌日には遺跡を観に北へ移動したかったのにバンコクで足止めを食うハメに。その夜は、バンコクなら如何に安くエロく過ごせるか、という話に花が咲き、咲けば咲くほどヒロシの饒舌ぶりにも花が咲き、いけはしおれて先に部屋へ帰ったのでした。

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