そもそも2人で海外旅行いくほど仲の良い距離感でもなかったけれど、それでも中学から6年間同じ学校で一度もケンカなんかしたことなんかなかったヒロシと、到着数時間でここまで仲悪くなるなんて、と沈黙のまま安宿街へ戻る2人。もう、宿取ってないって言うのやめよ。こいつに責められたり謝ったりするなんてまっぴらごめんだぜ!と腹に決めるいけ。

安宿街カオサンに到着し、予約した宿を探すふりをして今日泊まる宿を探す。メシはカフェだしトゥクトゥク2回も乗っちゃったし、まだこの先ひと月あるんだから節約しなきゃ。と、何軒かまわった中でいちばん安い宿にチェックイン。しめしめ、予約取らなかったことはバレてないぜ。

「で、部屋は?」
「ん?ここだけど。」
「ここに寝るのか?」
「そうだよ。」
「これが、部屋?」
「…ベッド、どっち使う?」
「これは、部屋じゃないな」
「あ、奥のベッド使ってい…」
「これは、牢屋だ!」
「あぅ…」
「エアコンもねー」
「いや、それは基本だよ、この先も…」
「扇風機もねー」
「あ、フロントにあるか聞いてく…」
「窓もない!これは牢屋だ!オレは牢屋では寝ない!」
「あのさ、さっきまでなんであんな片言だったの?」「辛かったからだ!」
「あ、なるほどね…」「口がしびれたんだ!ゴキブリ!」
「あ、口がね、辛さでね、あ、うん、いるね、ゴキブリ…1.2.3.4.5匹、くらい、いるよね。気付いちゃってたか…」
完全に形勢が逆転したいけとヒロシ。実は宿など取ってないし、この先どこへ行っても、毎日宿探しせねばならぬ旨を説明し、だがしかしこの旅のスタイルこそ、軟弱な観光旅行とは一線を画す硬派な旅なんだぜ。ヒロシ、硬派好きでしょ?と説得、しかし失敗。

仕方なくこの宿は出て3倍くらいの値段のバンガロー風のこじゃれた安宿へ。そこでこの旅初の日本人に会う。京都大学4回生のめちゃくちゃ男くさい、というか実際に完全に体臭のくさい3人組。

「パッポン行ったか?」
「あ、ちょうどさっき吉野家探しに行ったあたりだよね、ヒロシ」
うなだれてビールを飲み、まったく会話に入って来ないヒロシ
「一発ヤッたか?」
「え?」
「女買わなかったのか。」
「あ、いや、牛丼探しに行っただけでぼくらそういうのはちょっと…ね、ヒロシ」
女買う、のワードに一瞬ピクっと顔を上げるも、会話には入って来ないヒロシ
「なんだパッポン行って女も買わずに帰って来たのかしょーもない。」
「あ、けどほら、病気とかも怖いし、金ないし…」
「ストリップ観たか?」
「いやだからそういうのは僕ら…」
完全に顔を上げ、目を輝かすヒロシ
「明日連れてってや...」
「行きます!」
ここまで無言だったヒロシ、挙手、即答。
「え?行くの?」
「何言ってるんだい、いけくん。先輩方がせっかく連れて行ってくださるというのに、断るなんて失礼じゃないか。さあ、先輩、何時に行きますか?
饒舌!しかもなんかウザい後輩キャラ...

なんで旅先でくさい日本人、しかも男としゃべんなきゃいけねーんだ

女買う?いやちょっと怖いか

ストリップ!ほどよい!めっちゃ行きたい!
ヒロシの心境変化の図です。最初は衝撃的に感じ悪く下向いてビールばっか飲んでたくせに。ずっと辛いもん食ってりゃいいのにこいつ…

こうしてほんとは翌日には遺跡を観に北へ移動したかったのにバンコクで足止めを食うハメに。その夜は、バンコクなら如何に安くエロく過ごせるか、という話に花が咲き、咲けば咲くほどヒロシの饒舌ぶりにも花が咲き、いけはしおれて先に部屋へ帰ったのでした。


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