翌朝、
「飯食いに行こう」「ストリップまで体力温存」
「バンコク観光しよ」「ストリップまで温存」
「いや、でもストリップの待ち合わせ夜だよ」「温存」
と、徐々にストリップ、と温存、の2語しかしゃべれなくなっていくヒロシ。
仕方ないのでひとりで屋台でメシ食ったり、寺院観たりして夜になったらパッポンへ。
京大生と合流したとたん饒舌後輩キャラになるヒロシ。イライラが頂点に達したままストリップ到着。
自分が考えていたゲストハウス一泊分の3倍くらいの料金を払って入店。
他の4人は女の子が隣についてくれるキャバクラ風のボックス席に通されたのに、満席かなんかで自分だけ相撲で言ったら土俵間際の砂かぶりみたいな席に通されイライラの頂点の向こう側へ。
ショーが始まり、踊り子さんたちが、爆竹鳴らしたり、笛を演奏したり、これでもかというほど何カ国分もの万国旗が出て来たり、吹き矢で遠くの風船割ったり、する様にいつしかイライラなんか忘れて「すげー!人体の神秘!まじすげー!」と感動の涙すら覚え始めたその時、こちらを向いてバナナをくわえる踊り子さん。バナナを食いちぎる踊り子さん。食いちぎったバナナをそのまま私の方へ吹き飛ばす踊り子さん。吹き飛ぶバナナ。目の前に着地するバナナ。さあ、お食べ。のポーズをする踊り子さん。食えません!てかどういう仕組みで食いちぎれてどういう運動によって吹き飛ばされてんの、このバナナ!ヌメッとしてるし!
と、我に返ったところでショーが終了。みんなのいる席が空いていたのでそちらへ移動。京大生たちにドヤ顔で、どうだおもしろかっただろ。と聞かれたので悔しいし、そもそもお前ら今日も臭いし風呂入んないの?と思いながらも、正直楽しかったス。と懺悔。場にも慣れて来て、楽しまなくちゃ損かな、なんて思いつつも、お店の女の子が飲物オネダリしてくるのは頑に拒み続けていた、そのとき、あまりにも金を出さない私に業を煮やした店の子が、私の財布から千円札を掴みとったのです。
猛烈にキレる私、にキレる店の子、につたない英語でいかにその千円札がこの旅にとって重要な金であるかをまくしたてる私、に殴りかかる店の子。するとオーナーらしきタイ人男性、がやおら登場。ものすごい剣幕で何やらまくしたてながら私の方へ猪突猛進。オーナーの右ストレートが繰り出され、あ、殺されちゃうんだ、自分。こういうのテレビで観たことあるわー。このあと屈強なグラサンの男が出て来て奥まで連れてかれて、さらにボッコボコにされるんだー。死ぬ時って案外あっさり来るのね。とすべてをあきらめたその時、店の子をボッコボコに殴り倒すオーナー。そして私に深々と陳謝。かかったお金を全額お返し頂いて出店。
「オレが守る」
「あ、ん、えぇ?」
死ぬかと思った。やっぱり危険な目に遭うから、こんなところもう二度と来るのやめよう。店を出てすぐそうヒロシに言おうと思っていた矢先、それより前にヒロシの口から飛び出すオレが守る宣言。
「あ、うん、ありがとう。うれしいけどもう来ないようにすれば大丈夫だからさ」
「は?」
「ん?」
「なんでオレがお前守んなきゃいけねーんだよ。お前のせいでマジ危なかったぞ、あの子。」
「え?あ、あの、殴られた店の子?」
「そうだ。オレは毎日あの店に行って、あの子のことを守る」
「ど、どうしてそうなんの...」
「あの女、オレに惚れてるからな」
絶句、という熟語がありますが、人生でこの時ほど、文字通り絶句、したことはありません。
「あの子、ほんとはあんな仕事したくねーんだ。だからオレが守る!だからオレはずっとバンコクにいる。悪いがあとはひとりで旅を続けてくれ!大学も行かない。」
ヒロシくんはまだ高校を出たばかりで職にも就いていないこと。そもそもあの子の方が収入があること。というかあなたただの旅行者だしこのままタイに住むことなんてできないこと。などをとつとつと説明してみるも、のれんに腕押し。
「南の島、サムイとか行けば、もっと簡単に安く女とヤレるぜ」
京大生がそう口を挟んだその瞬間。ピキーン、という効果音がヒロシから鳴り響いた気がしました。
「いけくん、あの子には悪いが、確かに君の言う通り、このままバンコクに住めるわけじゃない。オレもちょっと頭冷そう、明日、サムイ島へ行こうじゃないか。」
「うん。そうだね、わかったよ。明日、サムイへ行こう!」
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