翌朝、
サムイで大人の男になるぜ!と意気揚々のヒロシ、を従え列車に乗り北を目指すいけ。
南の島でアバンチュールに賛同したフリをして、自分の行きたい遺跡の街、アユタヤを目指す。刻一刻と、南へ進んでいると信じてやまない笑顔のヒロシ。完全にムカついてるのでまったく心の痛まぬいけ。

ところが、列車に乗るまで気づかなかったが、駅名表示はタイ語、車内アナウンスももちろんタイ語。つまりどの駅で降りたらいいかわからない、その上全然ダイヤ通りに運行しないので、とっくにアユタヤに着いているはずの時間。駅に着くたびに近くの乗客と、「ここアユタヤ?」「違う」のやりとりを繰り返した3駅目の発車ベルが鳴りだしたその時「ここだここだ!」と突然降りるよう急かされ慌てて下車。
しかし何度地図みてぐるぐるまわっても、どうも手元の地図と合致しない道。不機嫌になっていくヒロシ。ちなみにほんとかどうか知らないけれど、タイの文化では人に道を聞かれた時に「知らない」と答えるのは失礼なので、とりあえず自分の思う答えを述べる、と聞いたことがあります。このタイ式親切心によってどんどん混乱するいけ。しゃべらなくなるヒロシ。小1時間さまよい、何人か目のタイ人に道を聞くと「アユタヤなら次の駅だよ」との返答。がびーん。次の列車を調べるも相当先の時間。旅に出る前ヒロシに「タイなんて行きたくない。猿岩石みたいなやつだろ」と言われ「ヒッチハイクなんかしないよ!バカだな」と一笑に付したにもかかわらず、到着3日目でヒッチハイクを試みることに。そんでまたこれがビックリするくらいすぐに成功。トラックの荷台に揺られ風を受け、否が応にも白い雲のようにを口ずさんじゃうシチュエーション。景色の良さとヒッチハイクの成功とこれみよがしの猿岩石ぽさに気分がたかまり、また険悪になりかけた2人の仲も一旦持ち直し、無事アユタヤに到着、したとたん

「おまえ、さっきからタイ人に『アユタヤ』、って聞いてるよな?」
「!!!」
「アユタヤって、お前が行きたいって言ってた遺跡だよな?」
「ん、ふぅぅん」
「サムイに行くんじゃなかったか?」
「ぬ、ぐ、ふふぅぅん」
「お前、オレを騙したな!」
「意外と気づくの早かったね...」

無言のまま今晩の宿探しが始まり、無言のまま今晩の宿にチェックイン。
日本人ばっかり泊まってるゲストハウスがタイには、というか東南アジアにはたくさんありまして、そういうところに泊まるヤツはバックパッカーの中でもナンパなやろうだ!そんな宿には泊まらないぜ!というムダな意識があったのですが、しょっぱなに訪ねた宿が正しくその日本人宿。泊まってるの全員日本人。ものすごく泊まりたくなかったのだけど、沈黙のヒロシを抱えたまま何軒もまわる勇気はなく、この宿に決定。
「おかえりー」
とか言う文化なんですよね。ゲストハウスって。何度も足を運ぶうちに自分の中でも「ふるさとみたい」てな感情が芽生えたりするので今となっては心地いい言葉なのですが、この「おかえりー」を、しかもタイなのに日本語で、初対面の人たちに一斉に浴びせられたもんで怯むいけとヒロシ。しかし2人で部屋にいるのも気まずく、仕方なく共有スペースのリビングルームに出向く。苦手とする「どこ住んでんのー」「何型ー」みたいな初対面トークにあくせくする私、とは対照的に、またひとりうつむいてギターをつまびくヒロシ。ん?ヒロシ、ハープ習ってるけどギターなんて弾けたっけ?とギターの方向に目をやると、黙々とビールを煽るヒロシ越しに、ゲストハウスの外でひとりギターをつまびく金髪の美青年が。
「あ、あの金髪ね、昨日から泊まってるんだけど、話しかけても全然答えないし、会話にも入って来ないし、変なヤツなんだよね」


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